REWORK

新しい働き方 / 営み方を実践するメディア

<後編> 50個の村のような組織と、実家のようなオフィスがつくりたい。スマイルズ・遠山正道さん

「REWORK」編集長・馬場正尊が、新しい働き方やオフィスの形を実践している会社を訪ね、その意図や狙いを探る連載企画。前編に続き、スマイルズの遠山正道さんが考える、これからの会社と個人のあり方、オフィスのあり方を独自の言葉で語ってくれました。前編はこちら

オフィスツアーから始まったインタビュー。空間一つ一つの作り方に遠山さんの思いが宿る。

アートに学び、アートにインスパイアされる事業をつくりたい。

遠山 Soup Stock TokyoやPASS THE BATTON、giraffeは、僕が言い出しっぺだけど、そういう「自分ごと」がどんどん生まれてくるのはすごくいい。だって、新宿1丁目でバーなんて、僕には想像もできないから。我々にできないことを個人でやってくれている感覚なので、ついユニークなものに目がいっちゃう。

社内ベンチャーの話もそうだし、会社の中に飾っている現代アートもそう。若手を育成するんじゃなくて、我々自身が学んでいるんです。

 

馬場 たしかにインテリアって感覚は全然なくて、とんがって強い世界観を持っていいからね、っていうメッセージに見えます。

写真家・上田義彦さんの作品。いろいろなところにピントがあった幻想的な一枚。
パズルのピースが欠けたシルバーの壁は、Chim↑Pomによるコミッションワーク。
エントランスに飾られている、ポートランドの老舗企業「ジャンセン」のアンティーク水着と、岩井優さんの作品(下)。
2008年にMBOをしたとき、遠山さんが撮影した写真。「丸しかないサイコロを、みんなで振ろう」という気持ちが込められている。
2005〜15年まで、スマイルズの10年間の事業計画をイメージした絵は、遠山さん自身が描いたもの。

遠山 一応、会社のコレクションなので、社員に共有しやすいものを選んでいます。たとえば、上田義彦さんの屋久島の写真は、おそらく何百枚もシャッター切って、いくらでも作品になるカットがあるのに、それを捨てて捨ててつくり込んでいる。そこからは、仕事の緻密さみたいなものを学べますよね。あとは、作品から新しい業態が生まれたらいいなと思っていて。

 

馬場 1枚の写真からインスパイアされるお店とか事業とか?

 

遠山 デイヴィッド・ホックニーの絵はサンドイッチを食べているようにも見えるので、その絵を飾ったサンドイッチ屋とか。ブランドのある店をつくるときって、やっぱり理由がほしいし、そこからスタートしたいんです。

Soup Stock Tokyoが始まった時に作られたカンバス。常に初心を忘れない思いが表れている。

理想は、情熱や夢の集合で成り立っている会社。

遠山 よく言ってるのは、団体戦もあれば個人戦もあるよということ。厳しい練習に耐えてみんなで喜ぶ、団体競技には団体競技のすてきなところがあるじゃない? もちろんチームで優勝もすばらしいけど、1回は個人で金メダルをとってみたい。そのための用意はいつでもあるよ、と。

 

おじいちゃんがアイロンをかける姿に憧れて、「自分も将来クリーニング屋をやりたい」って言って、入ってきた社員がいるんです。彼は最近、7年目にしてついに時短勤務にして、クリーニングの学校に通いはじめました。お、いよいよ動きだしたなって。

 

馬場 それをうれしそうに見ている社長もすごい。

 

遠山 きっとインターネットでオーダーを取るとか、カフェがくっついているとか、彼なりの現代のクリーニング屋をつくって、おじいちゃんに見せるんでしょう。そういう入口と出口がわかってると、あとはもう思いっきりやって、みたいな感じ(笑)。

こうなると、単に仕事の領域を超えている感じがあるじゃない? 9時17時とか、給料がいくらとかそういうんじゃない。情熱だったり、自己実現とか夢みたいなエネルギーが確実にあるわけですよ。そういうものの集合で会社が成り立ってたら、すごいですよね。

 

21世紀は需要のない時代ですから、基本的には何をやってもうまくいかないと思ったほうがいい。7割は失敗する時代に、それでもやるんだから、それを逆転させるようなエネルギーがないと。

拠り所となれるような空間。モードに合わせて居場所を選べるオフィス。

オフィスとは「実家」のようなもの。

馬場 独立を支援する制度みたいなものはあるんですか?

 

遠山 ベンチャー推進室はあるんですが、制度にはあんまり期待していなくて。というのも、もともとスープストックは三菱商事の社内ベンチャー第1号だったんですが、日本って、社内ベンチャーがうまくいっている事例がすごく少ないんです。

 

至った結論としては、やる人は制度があろうがなかろうがやる、ということ。完璧な環境なんてどこにもないわけで、「制度がないからできませんでした」って、まわりに理由を求めたらキリがない。だってやりたいんでしょ? だったら上司とか会社のせいにするなよって。

 

あとは最低限、ビジネスとして赤字はやめてね、と(笑)。今は、そういう社内ベンチャーや個人への出資が10いくつ。それが50個くらいに増えて「村」みたいになっていったら面白いよね、って話しています。

スマイルズの未来像を語る遠山さん。

馬場 50個の村ができたとき、オフィスはどういうふうに?

 

遠山 たとえばgiraffeは、千駄ヶ谷にショップを構えたとき、オフィスもそこに移しました。そのほうが「自分ごと感」が出るので。今は分社化しているのはスープストックだけですが、それが10個あれば10人の社長と何十人のグループが生まれます。オフィスはひとつじゃなきゃいけない、って感じはないですね。

 

馬場 でも、空間を共有するのは大事ですよね?

 

遠山 そうですね。だから、ここは「実家」みたいな感じ。

 

馬場 その表現はいいですね。困ったときに助けてくれる感じもするし。

 

遠山 でも、依存していたらダメなんですよ。ぜんぜん帰ってこない息子、みたいなほうが、たぶん強い。実家に魅力がないと寄りついてくれないから、こっちも強くいないといけないでしょう。みんな仲良くみたいなのは半分は好きなんだけど、半分は依存になりかねないという危険もあって。だから、ある種のクールさはあったほうがいいですよね。

 

馬場 新しい会社の姿ですね。スマイルズが、ある規模で収益性を維持できていたら、まさに次の社会を象徴するドリームかもしれない。

 

遠山 ギリギリなんですけどね、今は(笑)。

 

profile

遠山 正道(とおやま・まさみち)Masamichi Toyama

株式会社スマイルズ 代表取締役社長

1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、コンテンポラリーフード&リカー「PAVILION」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。

遠山さんに関連するウェブサイト

Smiles :www.smiles.co.jp
Soup Stock Tokyo : www.soup-stock-tokyo.com
giraffe :giraffe-tie.com
PASS THE BATON:www.pass-the-baton.com
100本のスプーン:100spoons.com
PAVILION:www.pavilion-tokyo.com
遠山正道のブログ:toyama.smiles.co.jp

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