REWORK

新しい働き方 / 営み方を実践するメディア

<前編> 50個の村のような組織と、実家のようなオフィスがつくりたい。スマイルズ・遠山正道さん

「REWORK」編集長・馬場正尊が、新しい働き方やオフィスの形を実践している会社を訪ね、その意図や狙いを探る連載企画。記念すべき第1回目は、「Soup Stock Tokyo」をはじめ、新しいセレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ネクタイブランド「giraffe」など、さまざまな事業を手がける、株式会社スマイルズの遠山正道さんに話をうかがった。前編・後編の2回に分けてお届けします。後編はこちら

遠山さんとオフィスエントランスのアートピースについて語る

緑が見えて風が抜ける、居場所のあるオフィス。

馬場 今日、スマイルズの会社を見せてもらって、本当にいいなと思ったのは、空間自体が企業の世界観を雄弁に語っているところ。ちなみに、ここに移ってきたのは?

 

遠山 2009年くらいですね。最初のオフィスは、青山の根津美術館の前にある6畳2間の和室でした。まだ社員も3人くらいで、畳を上げてベニヤを張った、障子のあるオフィス。そのあと、溜池でお店をやったけれどうまくいかなくて、青山のほうも引き払って。

 

しばらくして、代官山のヒルサイドテラスに引っ越しました。立派といえば立派ですけど、実際は僕がアトリエとして借りていたスペース。そこがいっぱいになって、今の場所に移るときに言ったのは「緑が見えて、風が抜けるようなオフィスがいい」ということ。床を高くしているのも、目黒川の桜がよく見えるようになんです。

 

馬場 あえて天高を犠牲にしているのは、“桜準拠”なんですね!

 

遠山 フラットでコミュニケーションが取りやすいオフィスがよかったので、壁は極力少なく。社長室をつくろうみたいな発想は誰にもなくて、僕の席も横並び。

 

馬場 うちの会社も最近オフィスをオープンしたばかりなんです(Under Construction)。イメージは、いろんなところで人が働いている「屋根のある公園」。僕の席もあるのかないのかみたいな感じで、パーテーションもなくて全部見渡せる。

 

遠山 スマイルズは外食系の会社なので、オフィスのほかに店舗があるんですが、どうしても彼らは孤独になりがち。月末処理をしにきたんだけど、居場所がないから書類を置いてそそくさと帰るんじゃなくて、交われるようなオフィスがいいなと思って。

 

エントランスにあるフリースペースで作業をしたり、上の階にあるテストキッチンでツマミ食いしたり。子どもをつれてくるお母さん社員もいます。

 

馬場 まさに思想とか発想は、ほぼ一緒。固定の席やミーティングスペースのほかに、でっかいキッチンがあって、まわりに立ってミーティングしたり雑談したり。プロジェクトを共有して、そこから仕事がはじまるような場所をイメージしました。

目黒川の桜を眺められる窓辺

プロジェクトはマーケティングではなく「自分ごと」で始める。

馬場 スマイルズは、社員がオーナーになってプロジェクトを立ち上げてますよね?

 

遠山 ええ。うちの会社って「自分ごと」って言葉を大切にしていて、マーケティング的じゃないんですよね。新しいプロジェクトを始めるときも、やりたいことがあったり、根っ子としての必然性や意義があったり。そういうところからスタートしたい。

 

「個人の引力」なんて言ってるんですけど、そのほうがやっているほうも楽しめるし、価値も生み出せる。たとえば、最初の社内ベンチャーは、新宿1丁目の「バートイレット(bar Toilet)」っていう看板のないバー。最近も銀座1丁目で1冊の本だけを売る「森岡書店」をやったり。

 

馬場 個人の延長でしかできないような事業ばかりですね。

 

遠山 出資といっても100万とかそのくらいだから、ちょっとトライしてみるかって。大きくなっちゃうと、看板のないバーとか1冊の本みたいなコンセプトじゃ無理だし、よくあるプロジェクトになってしまう。

 

リスクが少ないからこそ面白いことができるし、その人の知見とか経験とか情熱にかかっていて、何の言い訳もできない。やりがいも感じられるし、仕事と人生がそのまま重なってくる。借りてきた仕事の仕方じゃない、両手両足突っ込んだ世界になるわけです。

 

馬場 個人の規模で終わらなくてもいいし、広がりたいなら広がっていけばいい?

 

遠山 そうですね、ユニークさとか、とんがり方がぬるくならないのであれば。実際、新宿のバーは3店舗目をオープンしたし、森岡書店にしても考えている展開があって。一方で、今はSNSがあるから、森岡書店の情報を知りイギリスの『ガーディアン』が取材に来たり、カルフールの役員がインタビューに来たり、小さければ小さいほど効いてくるみたいなところもありますね。

ファミレス席と呼ばれるミーティングブース

社内ベンチャーは、社員にとっての「イグジット」。

馬場 遠山さんの理想の風景って、そういう個人が集まった働き方や組織なんですか?

 

遠山 会社を始めた頃は「インフラ」になりたいみたいなことも言っていましたが、今はそれが面白いですね。この社内ベンチャーの仕組みって、社員にとっては、ある種「イグジット」なんです。ずっと同じブランドにいても退屈に感じる人もいるだろうし、小さくてもいつか自分の店を持ちたいって人も多いし。

 

最近オープンしたジンギスカン屋の場合は、やりたいと言った社員が、スマイルズに所属したまま代表になっています。で、3年たったら自分の給料は自分で稼いでね、というスタイル。そういう形ができると、将来は店をやりたいって思う人も出てくるし、今の大変な仕事が全部肥やしになる。

 

馬場 なるほど。

 

 

開発が行われるキッチンを眺める。社員の食事が作られることも。
オフィスエントランスとあえて段差をつけたオフィスフロア。
アートは展示するだけでなくメッセージであると語る遠山さん。
社長からのメッセージ(アート)を背に働く。
Soup Stock Tokyo創業時の思い出のアートピース。
壁面には開発されたプロダクトや書籍が並ぶ。

遠山 『ライフ・シフト』という本によれば、50代でも50%以上の確率で100歳まで生きるといわれています。60歳で定年を迎えて、あとはリタイヤして死ねる時代と違って、40年くらい自分で食っていく、あるいは生きる喜びを確保していかなければならないわけ。

大変といえば大変だし、楽しいといえば楽しいけれど、そのときのリスクって「固定」だと思うんです。住宅ローンもそうだし、ひとつの企業にずっと依存することもそうかもしれない。とはいっても、自分の「根っ子」みたいなものは必要で、外食とか建築っていう旗印というか背骨があって、それ掛ける◯◯とか、それプラス◯◯みたいに考えていく。

馬場 軸はしっかりしてるけれど、柔軟なほうがいい。スマイルズという会社は、そういう新しい価値観やロールモデルを生み出す、インフラみたいなものなんですね。

後編へ続く>

profile

遠山 正道(とおやま・まさみち)Masamichi Toyama

株式会社スマイルズ 代表取締役社長

1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、コンテンポラリーフード&リカー「PAVILION」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。

遠山さんに関連するウェブサイト

Smiles :www.smiles.co.jp
Soup Stock Tokyo : www.soup-stock-tokyo.com
giraffe :giraffe-tie.com
PASS THE BATON:www.pass-the-baton.com
100本のスプーン:100spoons.com
PAVILION:www.pavilion-tokyo.com
遠山正道のブログ:toyama.smiles.co.jp

 

 

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