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街全体がひとつのワークプレイスへ。カヤック柳澤大輔×馬場正尊 対談(後編)

鎌倉の街を舞台に「鎌倉資本主義」の概念のもと、地域の企業と手を取り合い活動する面白法人カヤック。

前編では、鎌倉資本主義が「経済資本」、人とのつながりの「社会資本」、自然や文化に代表される「環境資本」という3つの資本に分けられることが明かされた。

後編では、その実践にまつわるエピソードから、今後の展開が語られていく。

REWORK編集長・馬場正尊(左)とカヤック代表・柳澤大輔氏(右)

社会資本を具現化した「まちの社員食堂」

馬場 鎌倉では、カヤックが中心となって“まちのシリーズ”が展開されていますね。地元の企業同士が手を取り合って運営し利用する「まちの保育園 かまくら」や「まちの社員食堂」。例えば「まちの社員食堂」はどんなプロセスで展開されていったのですか?

柳澤 グーグルや楽天などのIT企業がみな衛生要員として社員食堂を持っていて、カヤックにもあった方がいいかなというところから最初は入っていきました。

さらに「面白法人」としてのエッセンスを加えようと、社員食堂の面白くないところはどこかな?と考えました。例えば、自社専用で外には閉じていたりとか、飽きちゃうから毎日・毎週は行きたくならないとか。

そこで週替わりで内容が変わった方がいいというアイディアが加わった。さらに閉じたものではなく、せっかくならみんなで食堂を運営して地元のお店においしいものを提供してもらおうと。地元の企業間ではカマコンを通じて経済資本主義に対して共通の問題意識を持っていたから、発案後はとてもスムーズでした。

その中で一番大切にしていたのは、外に発信したとき「面白さ」を感じるかどうか。カヤックが大切にしている“話題になる嗅覚”を働かせながら考えていきましたね。

馬場 カヤックは面白くい続けるために、資本主義の概念を活用している。それはどういう思考回路から生まれてくるのだろうか。

柳澤 例えば「まちの社員食堂」の売上げは年間数百万とかで、経済的に大きな価値は生んでいません。

でも、交流価値とか、仲良くやる価値を世の中に出すという意味でのインパクトは大きいし、普通の社員食堂より何倍も人が繋がりやすい場所になっている。そこでイノベーションが起きたら、ますます良いものになる。

馬場 社会資本という意味での価値は、べらぼうに高い空間になっているんですね。

柳澤 それを経済資本で測ろうとすると、イノベーションが起きて経済的効果はどうかとか広告効果はどうかという換算をし始めてしまう。そういうことではなくて、繋がって楽しければいいという、そのものを指標にしておきたいんです。

鎌倉「まちの社員食堂」。メニューは週替わり。地元鎌倉の飲食店がヘルシーで美味しい食事を朝・昼・晩ふるまう。
青い外壁の三角屋根を目印に、日々鎌倉で働く人々が集う。小さなショップや住宅が混在する、ローカル感があふれる鎌倉駅西口に位置する。
現在、会員企業・団体は29社、メニューを提供してくれる飲食店は32店舗。鎌倉の企業や飲食店が手を取り合って運営している。
地産地消も「まちの社員食堂」のひとつのテーマ。地元の農家さんが野菜を届けてくれることもある。

馬場 環境資本はどのようにして展開されていくのですか?

柳澤 環境資本は自然や文化に代表されることであり、現状では「まちの社員食堂」で地産地消のレストランが出てきて、地元の食材を使ったメニューを提供していただいています。

今後は地域電力といったエネルギーの分野が挙がってくるかもしれません。環境資本についてはまだ弱いところです。

馬場 地産地消という意味では農業も入ってくるのでしょうね。

既存の産業の中で行き詰っていて、貨幣価値だけでは測りにくい価値を多く持っているのが社会資本と環境資本。同時に大化けする可能性も持っている。

柳澤 取り組んだテーマがでかすぎて、まだ全貌が見えているわけではないので、まだ話し合いをして構想している最中です。

鎌倉で実験したことをヒントにしてもらいながら、他の土地でもいろんな事例が出てきてお互いが真似し合えたらいいなと思っています。

 

いくつもの機能がミックスされた街

馬場 カヤックのオフィス事情はどうですか?

柳澤 しばらくは横浜にいたのですが、2018年の後半に鎌倉に戻ります。

馬場 カヤックの規模が入るくらいのいいサイズの空間がなかったんですね。

柳澤 なかったですね。鎌倉ではオフィスの床面積が足りない問題があります。鎌倉で働く人を増やしたいと常々思っているんですけどね。

だけど、この7、8年の間に市の政策として働く人を増やす方針になったんです。鎌倉はお金持ちの人が老後に引退して別荘を持って暮らす場所でしたが、その世代の人たちが亡くなって税収が下がり、観光収入もあまり上がらない。だから働く人を増やそうということです。

馬場 確かにそうですね。カヤックを知っているから鎌倉=働くというイメージが湧いているけど、冷静に考えるとかつては居住と観光しかなかったですね。

柳澤 鎌倉は20万人位の規模。そのくらいのコンパクトシティが活性化しないと地方創生の道はない。そのためには、街の中には働く人と住む人がギュッと集まっているのが理想だと思っています。

馬場 都市計画にはゾーニングの歴史があって、居住地は居住地、商業地は商業地、業務地区は業務地区にと、住むところ、営むところ、働くところを分けてしまった。今の都市計画を覆すのはなかなか難しいけど、僕も本当にそれを正さなくてはいけないと思っている。

柳澤 例えば、幼稚園の横に介護施設があるとか、オフィスの横に商店があるとか、いろんな機能がギュッと集まっているほうが楽しいですよね。

馬場 いろんな機能がミックスされた街は、新しい地方都市のモデルでもありますよね。

僕も仕事で地方に行って感じるけど、中心市街地の空洞化を商業で再生しようとしても、されるわけがない。価格競争力が違い過ぎる。

それにも関わらず、建築基準法によってまだ中心市街地では木造の住宅が建てられない。だからゾーニングを廃さなければ、日本の地方都市の復活はないと思っています。

柳澤 建築的な話、すごく面白いですね。

馬場 いまではコンテンツをつくるカヤックのような会社が街に機能を増やしている。社員食堂という商業を、オフィス付近に混在させている。そういう時代になっているんですね。

柳澤 「まちの社員食堂」や「まちの保育園」といったコンテンツを先に作ってしまい、街のイメージを変えていく。鎌倉がひとつの実験の場となればいいかなと思っています。

鎌倉で働く人に開かれた「まちの保育園 かまくら」
カヤックが「鳩サブレー」でお馴染みの株式会社豊島屋と共同で運営している。
現在は17〜19人ほどの子供達が入園している。街とのつながりを大切に、地域の人と交流もある。
鎌倉でも待機児童が多く、社員が産休・育休から復帰できない問題から端を発したという。

馬場 あるエリアの中に仕事場があって、子育てもあって、食べたり遊んだりする場所もあって、鎌倉の場合は観光まである。混ざり込んでいて、良い意味でなにのエリアかわからない地域ですね。

柳澤 観光のような感覚で3ヶ月だけ滞在して、一緒に仕事して去っていく、みたいなチャレンジは鎌倉ではやりやすいですね。

馬場 もはやそれを観光と呼ぶのか仕事と呼ぶのかはわからない。そういった新しい人間の営み方や働き方や幸せの姿をエリア全体で表現しようとしていて、それが発信されれば、そこに目がけて能力のある人やアイディアのある人が集まってきますよね。

例えば、農業で面白いことをやりたい人や、AIでなにか挑戦したい人が来るかもしれない。もしかしたらそこから意外な組み合わせが起きるかもしれない。地域資本主義というのは、それを促す決定的な仕組みなのかもしれない。他の地方都市でもそれは起こりえるのだろうか。

柳澤 ゼロから作れるぶん、やりやすいと思いますよ。鎌倉はすでに人気がある土地なのでやりやすいと言われますけど、やりたい人が多いからまとまらなくて意外と難しいことがあります。だから何もない所からやった方が早いこともあるでしょうね。

地域によっていろんなやり方があると思います。トヨタのような大企業があって、企業城下町のように経済域ができるパターンもあるし、鯖江のように産業を集積させるパターンもある。鎌倉の場合は、鎌倉という名前を使った突出した企業、例えば「鎌倉投信」や「メーカーズシャツ鎌倉」などがあるから、個性ある企業がお互いコラボしていくのがいいのかなと、あえて業界を固定しないほうがいいのかなと思います。

馬場 こうやって話していると、柳澤さんの考えがはっきり言語化されているのがわかります。カマコンでも鎌倉の街の人にも、こういった思想は伝わっていますか?

柳澤 地域資本主義自体は、企業としての経営ロジックです。カマコンには企業だけでなく個人会員もいるので、そこに興味を持ってもらうというより、みんなが楽しければいいと思っています。

馬場 そうか。地域のムードを作っていく上でのOSなんですよね。

柳澤 結局のところ「地域資本主義」とは、経済資本だけではなく、地域の中で社会資本、環境資本をしっかり伸ばすことを、企業という生き物がみんなで統一してやりましょうという考え方なんです。

 

街全体が巨大なワークプレイスへ

馬場 今後、鎌倉資本主義はどのように展開されていくのですか?

柳澤 「まちの社員食堂」「まちの保育園」に続いて、まちのシリーズ第3弾は「まちの人事部」です。各企業の人事部が集まって合同で会社説明会や研修をやったり、人事考課をしたりして、協力できることは一緒にやっていこうと考えています。

そして、鎌倉には引退した大企業の役員クラスの方達がたくさん住んでいるので、そういう方たちをデータベース化し、顧問としてお迎えして、地元の企業とつなげたいとも考えています。地元に住んでいるから、まさに地元の人事部ですよね。

馬場 すごいことを考えますね。社会資本という切り口があるから思いつくわけですね。

柳澤 「自分が住んでいる街の企業だったら応援してもいいよ」という人が多いんですよ。

「まちの社員寮」も画策中です。街で働く人たちが住む社員寮。一社でやるのではなく、会社をまたいでいろんな人が住めば、みんな仲良くなる。基本的なコンセプトは「まちの社員食堂」と一緒です。

馬場 まち自体が巨大なワークプレイスというか、仕事場になっている。

柳澤 閉じない方がいいじゃないですか。

馬場 そういう場所にはきっと面白い人が集まってくる。そうなってくると最初の「どこでやるか」「誰とやるか」というテーゼに戻ってきて、強度を増していくわけですね。

「何をするか」ももちろん重要だけど、「どこでやるか」「誰とやるか」の観点は、幸せの大部分を担保している。

柳澤 そうなんですよ。昔よりもその価値が上がってきていますよね。

20年前はこれだけオフィス作りに投資してデザインすることも、やっていなかったですよね。こういう環境の方が働いていて楽しいってこと。環境はとても重要ってことですよ。

対談はOpenAのオフィスにて行われた

馬場 オフィスデザインも環境資本に基づくということですよね。OpenAも2016年にこの場所に移転して、実験的なオフィスをつくりました。そこから明らかにOpenAに興味を持ってくれる人が増えている実感があります。こういう場所で、こういう人たちと仕事がしたいと、オフィスから感じとっているのかもしれない。

 

「仲良し」が大抵の問題を解決する

馬場 今日の話から改めて気づいたのは、カヤックの判断基準にはいつも「面白いかどうか」ってことがある。最初は「面白法人」ってふざけた名前だと思ったけど(笑)、それがしっかり貫かれている。

実は「面白法人」も「地域資本主義」と同じで、対立概念の新しい組み合わせなんですよね。法人は面白がってはいけなかった。法人は真面目じゃないといけなかったわけだから。

柳澤 社名も直感でつけてしまったんですよ(笑)。

馬場 20世紀の前半はどうやってものを作るかという時代だった。いまはなにを作るかを考える時代になっている。だけど、今日聞いた「地域資本主義」は確実にその先の話。誰と、どこで作るか。そこに未来のヒントがあるのかもしれない。

柳澤 それでいうと、僕は「仲良し」が大抵の問題を解決すると思っているんです。仲良しっていい言葉じゃないですか。

仲良くなるには共同作業をしなくてはいけない。ただ飲んでいるだけじゃ仲良くならない。「鎌倉を良くしていこう」と言うと、みんながまとまって仲良くなる。

「まちの社員食堂」に出店してくれている飲食店のみなさんも、鎌倉のために協力するよと言ってくれて、同業者同士の結束が強まっていく。

馬場 みんなで運営しているということは、つまり共同作業ですよね。

柳澤 いま地域にはGDPの低下や、環境破壊や富の格差などいろんな課題があることは分かっていました。

だけど「まちの社員食堂」を始めるとき、そこは意識せずに「面白そうだ」「仲良くなれそうだ」という直感からスタートしました。すると、地産地消にもつながって、人とのつながりが目に見える形となり、それが市の政策と重なり合い、鎌倉市が「SDGs未来都市(※)」に選定されました。

※国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」を実現するポテンシャルが高い都市や地域を、国が選出した制度。

馬場 直感が起点にあるんですね。

柳澤 直感的にいいと思うことをやっていると、課題ともつながっていく。意外とそういうことは多いと思いますよ。

馬場 今日はありがとうございました。理論的な背景から具体的な実践まで、大きな示唆をいただきました。

柳澤 こちらこそありがとうございました。

 

企画協力:鎌倉R不動産

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