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「誰とするか」「どこでするか」新たな指標で経営を考える。 カヤック柳澤大輔×馬場正尊 対談(前編)

カヤック代表・柳澤大輔氏(左)とREWORK編集長・馬場正尊(右)

いま鎌倉を舞台に、新たなタイプの経営思想が育まれている。その名も「鎌倉資本主義」。面白法人カヤックが旗振り役となり、鎌倉の街全体で“豊かさ”を再定義しながら、働く環境や営みについて考え、実践を続けている。

以前にREWORKで紹介した鎌倉の「まちの社員食堂」は、「まちの保育園」に続く“まちのシリーズ”第二弾であり、鎌倉資本主義を体現する重要な1ピースとして誕生したものだ。

今回はカヤック代表の柳澤大輔さんをお招きし、馬場正尊(REWORK編集長)がインタビューを行った。鎌倉資本主義を通じて、経営や働くことの本質を見つめ直す。

profile

柳澤 大輔(やなさわ だいすけ)

1974年香港生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。1998年、学生時代の友人と共に面白法人カヤックを設立。オリジナリティあるWebサイト、スマートフォンアプリ、ソーシャルゲームなどのコンテンツを発信する。また、「面白法人」というキャッチコピーのもと、ユニークな人事制度(サイコロ給、スマイル給、ぜんいん人事部)や、ワークスタイル(旅する支社)を発信。2014年に上場。地域活動として、2013年よりITの力で鎌倉を支援する「カマコン」をスタート。2017年より「鎌倉資本主義」を提唱する。

カマコンの誕生。地域コミュニティのOSに

馬場 いま働く環境に大変革が起きています。住空間とオフィスの境目は薄くなってきているし、生活の延長が仕事で、仕事の延長に生活があるような感じです。

柳澤 鎌倉でもそれに近いものを感じますね。

馬場 カヤックは鎌倉の街全体をオフィスのような、ひとつの会社のような感覚をもって活動していますよね。その一例として、REWORKでは「まちの社員食堂」を取材させていただきました。今回はカヤックが街と繋がりながら取り組む経営や働き方、「地域資本主義」にまつわるストーリーをお聞きしたいと思っています。

まずカヤックが鎌倉に移転したのは何年前ですか?

柳澤 16年前ですかね。

馬場 もうそんなに経つのですね。なぜ鎌倉だったのでしょうか?

柳澤 約20年前、いつか仕事と遊びの境目がなくなるような時代が来るんじゃないかと考えていました。そこで面白がって働く会社があってもいいんじゃないか?との発想から「面白法人」と名付けて起業しました。

面白がって働くにあたり、どんなことが重要か考えました。一般的に考えて会社は「何をするか」が重要だけど、「誰とするか」「どこでするか」がもっともっと注目されてもいいはずだという感覚があって、その潮流を鎌倉で捉えることができたので、鎌倉という場所を選びました。ITというツールを使って人々の幸せに役立てることを、鎌倉から発信していこうと。

馬場 そこから上場して、地域との関係が深まっていくわけですね。いろんなプロセス、もしかしたらトラブルもあったかもしれない。なにか代表的なエピソードはありますか?

柳澤 「誰とするか」「どこでするか」に注目していたわけですが、会社って基本的には「何をするか」が重要なことには変わりがないんですね。

僕らが本社を移した後も何社か鎌倉にやってきましたが、会社が大きくなると経済合理性を求めて東京へ戻っていく。会社としては成長スピードが速い方がいいし、会社を大きくしていくことは会社にとって重要なことだから当然です。ひとりひとりは鎌倉に住んでいれば幸せだけど、会社としてそれが正解とは限らない。

僕らは「面白法人」を名乗った社名で、多様性もまた面白さにつながると考えているし、そこを伸ばしたいから、鎌倉に残り続けているし、地域の人も興味を持ってくれる。

つまり、会社が「何をするか」はやはり重要で、鎌倉に住みたい人だけを集めてもなんの事業も生まれないから、会社は成立しない。「何をするか」が地域と結びついていないと、会社として鎌倉に残る意味がない。

そこで、どうやったら企業が鎌倉に残る必要性が生まれるだろうかと考え、5年前に鎌倉の若手経営者たちと立ち上げたのが、地域の課題を自分ごと化して地元の鎌倉を盛り上げていく「カマコン」です。いろんな企業の経営者がカマコンに入って、まちづくりが面白いと思ってくれたら鎌倉に残る理由がでてきます。

経営者同士が事業計画を発表してお互いにアイディアを出すといったこともやります。

馬場 カマコンがコミュニティのOSとなっているんですね。

柳澤 そうですね。コミュニティの体感値が、経営者にも社員の中でも高まっていきます。

カマコンでの繋がりがあったので、「まちの社員食堂」をやろうとしたときもスムーズに進められました。

基本的にカマコンは企業や個人が街の活動に関わり、自分がこの街を良くするためのリーダーであるという意識を高めるための活動です。なにか活動したい人を応援する、それを促進するような仕組みを作りたいと思いました。

面白法人カヤックが、鎌倉で働く人たちを応援したいとの想いから2018年4月にオープンさせた「まちの社員食堂」

馬場 いまはカヤックが企業間や地域との中間領域にいるのだと思うけど、カヤックが移転した当時の鎌倉では、企業同士の接点はなかったのですか?

柳澤 鎌倉商工会議所など、さまざまな活動があります。ただ新興企業や行政も含めたコミュニティの受け皿は限られていたかもしれません。カヤックも、僕が個人的に鎌倉JC(鎌倉青年会議所)に入っていたくらいでした。

馬場 カマコンの誕生前後で変わったわけですね。

柳澤 カマコンを通じて、じわじわと地元の活動にコミットしていくようになりました。ほかの企業の経営者からも、同じ話を聞くことはあります。

馬場 カマコンなど地域で活動するうえで、コツみたいなことってあるんですか?

柳澤 ポイントはみんな仲良くやろうということ。ひとりの突出したアイデアマンが組織を率いたり、ヒエラルキーをつくる方法もありますが、それをやめようっていうことが次の新しさな気がしています。

こだわりがありすぎる人はやりづらいかもしれませんね。多少いい加減でもいいから、みんなでやることに意味があると思っています。

馬場 カマコンの参加者には、なにをゴール、もしくは成果と設定しているのですか?

柳澤 具体的なことはなにもないですね。楽しむことくらい(笑)。

馬場 なるほど。続けられているのは、成果を求めないところにあるのかもしれないですね。

 

経済資本に依存しない、新たな指標をつくる

馬場 そして次第に「地域資本主義(鎌倉資本主義)」という概念が立ち上がってきたわけですね。それはどのようなプロセスを経て生まれたのでしょうか?

柳澤 20年前から「誰とするか」「どこでするか」を大切に考えてきました。「誰とするか」は言い換えると「人とのつながり」だから、そこが豊かになれば人は幸せになるのではないかと思っていました。

「何をするか」は経済資本、「誰とするか」は社会資本、「どこでするか」は環境資本といえます。

経済資本を増やしていけば、ある程度はみんなが幸せになるから最初は頑張っていたけど、それだけではキツいということが、なんとなくわかってきた。みんながハッピーになる、なにか別の指標を増やさなくてはいけない。そこで「社会資本」「環境資本」を取り入れるようになっていきました。

それらは地域にたくさん埋もれているから「地域資本主義」と名付け、鎌倉では「鎌倉資本主義」として実践しています。

馬場 「地域資本主義」の言葉を初めて聞いたとき、衝撃を受けました。なぜ今までその言葉がなかったんだろうと。

「地域」と「資本主義」というめちゃくちゃシンプルな単語同士が、意外な組み合わせになっている。いままでの資本主義ではグローバルであることが絶対正義だと思っていた。どちらかといえば地域性を否定する方向だったのに、その真逆だったベクトルが一周まわって融合した。この5年くらいでかなりインパクトを受けた概念のひとつでした。

柳澤 グローバル化して生産性を上げることが求められて、板挟みのようになっていた地域が多かったと思うのです。画一化された合理性も大事だけど、やっぱり家庭菜園のように、多少は効率が落ちたとしても、自由にいろんなもの作れた方が楽しいですよね。せっかく地域ならではの強みがあるわけですから。そしていま、テクノロジーの進化によって、大量生産・大量消費を前提とした経済システムが変わろうとしている。こうして螺旋上に地域にまで戻ってきた気がしています。

馬場 確かにこの100年は機能細分化、役割細分化の歴史で、与えられた役割をこなすしかなかった。それが当然だと思っていたんだけど、どうもそこの先には幸せがないことにうっすら気がつき始めた。

柳澤 カヤックにはいろんな業務をやる“フルスタック”のエンジニアが多くいます。それはいろんな事をやっていた方がモチベーションが上がり生産性が高くなる、という話ではありません。むしろ分業した方が生産性は高いかもしれないんですよ。だけど、働く姿から楽しさは伝わってこない。

以前にどこでも働ける時代がくるといって「旅する支社」と名付け、一ヶ月ごそっと全社員で海外に行ったことがありました。そのときに「海外で仕事すると生産性が上がるのではないですか?」なんてよく聞かれたんですけど、それは上がらないですよ(笑)。 お客さんや現場に近い方が上がるに決まっています。

あくまで社員みんなが「やりたい!」というから実践したことであり、それは経済資本以外の指標では何かプラスになっていたと思います。経済合理性だけでは説明できないことです。

馬場 環境資本の気付きがすごく大きいということですね。

柳澤 そうですね。会社としてまずは「生産性」の定義を変えないといけない。経済資本だけの生産性でいくと会社の活動はそんなには変わらない気がします。経営者としてスケールの拡大を目指しているからこそ、よくわかります。

馬場 それはどういうことですか?

柳澤 企業は継続すること、成長し続けることを目指さなくてはいけない。経営者の職能として、そこが面白いと思えるのは条件のひとつだと思います。だからこそ手法として、社会資本と環境資本を入れていく必要があると思っています。

馬場 社会資本、環境資本という概念をインストールしたほうが、会社が大きくなることに貢献する。優位に立つことができるということですね。

柳澤 そうです。いま社内のメンバーで社会資本、環境資本を入れた指標を作ろうとしていますが、とても難しいですね。やっぱり指標というのは、会社を大きくするためのものでなければいけない。現状維持するためのものでは弱い。売上利益はずっと伸ばし続けることができるじゃないですか。だから会社って楽しいんですよ。

馬場 社会資本と環境資本を成長させていく。なるほど。すごいことを考えていますね。いま、そこの入り口にきているというわけですね。

柳澤 そうです。

馬場 「まちの社員食堂」とか「まちの保育園」とかって、福利厚生のようにも見えるじゃないですか。だけどいまの話でいうと、むしろ新しい会社の指標やエンジンであると捉えているんですね。

柳澤 そう捉えています。

 

後編「街全体がひとつのワークプレイスへ」へと続く

 

企画協力:鎌倉R不動産

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