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アマゾン、アップル……今、世界のオフィス空間にグリーンが求められる理由。

アマゾンやアップルの本社をはじめ、植物を大胆に配置したオフィスが話題になっている。今回取材したのは、オフィスや商業施設を中心に、植物を使った空間設計を手がけるパイオニアparkERs(パーカーズ)。デザインだけでなく、科学の力も使ったオフィス緑化を進める彼らが描く、未来の働く環境と緑の関係とは?

天井から、デスクから、いたるところに緑が生い茂るparkERsのオフィス。

きっかけは、DNAが喜ぶ心地よさ。

parkERs(パーカーズ)は、青山フラワーマーケットを運営するパーク・コーポレーションの事業部のひとつとして、2013年7月に社内ベンチャー的に立ち上がった。

ブランドマネージャー・梅澤伸也さんの原点は、ケニアに旅行をしたこと。ホモ・サピエンスが誕生したといわれるアフリカの大地サバンナに、セスナで降り立ったときに感じた心地よさがあった。

「太陽の熱と土の香りと、風の音と動物の鳴き声と。DNAが喜ぶというか、自分が生き物なんだという心地よさを感じて。こういう気持ちよさを全人類が持っていたら、冗談じゃなくて、戦争なんて起こらないんじゃないかって思うくらいぞわっとしました」

パーク・コーポレーションは、その名のとおり「公園」をキーワードに、そこに集う人々みんなが花と緑に囲まれた心豊かな生活と、笑顔になるものをつくるというのがコンセプト。もともと山登りやガーデニングが好きだった梅澤さんは、自然を使って世界と戦いたいという思いでジョイン。parkERsの立ち上げメンバーとなった。

「僕が企画を持ち込んだように聞こえますが、パーク・コーポレーションには、もともと青山フラワーマーケットの店舗設計チームがあって、花や緑がある空間をつくりたいというニーズも少しずつ増えていた。そこに『異業種から履歴書持って変なやつが突然現れた(笑)』。そして、事業がはじまりました」

parkERs ブランドマネージャーの梅澤伸也さん。

季節や時間の変化を加えた、四次元のオフィス設計。

「たとえば、デザイナーズ系のショップで売っているプランターって、すごくかっこいいけれど枯れてしまう。一方で、ホームセンターで売っているプランターはよく育つけどやぼったい。僕らは育つし、かっこいいを追究していく。異文化、異価値観の融合、そこが他の会社と違うところで、世界的にも稀なビジネスモデルだと思っています」

デザインや設計の専門家と、植物の専門家がアメーバのようにチームを組んで、ワンストップで進められるのが、parkERsの特徴。装飾でなく“設計”にこだわり、空調設計や照明設計も同時に行うため、植物も人も共に育つ空間をつくることができる。

「植物の育つ環境って、酸素も豊富だし、湿度も保ってくれるし、人にとってもいいはず。でも、オフィスをつくるときに植物を入れたいって思っても、“まず最初に予算を削られてしまう対象”という悩みもあって」

設立当初は、花屋のイメージがあるせいか1鉢だけ、数鉢だけ入れてほしいという案件も多かったそう。それが、事例をつくり体感してもらう機会が増えるにしたがって、エントランスやリラックススペースなど内装設計に紐づく案件が増えていった。現在では、駅や空港など公共空間の企画設計を手がけるまでになった。

「不思議なもので、一度緑を感じると、なくなるとさびしくなるものなんです。また、一般的な内装の仕事は引き渡して終わりですが、植物は時間の経過を楽しんでもらうことができる。通常の空間設計が三次元だとすると、季節や時間の変化という軸を加えた四次元の設計ができると考えています」

さまざまなプロダクトが並ぶ会議室は、緑のよさを体感できるショールーム。
ただ鉢を置くのではなく、「育てる」のが基本。
本社の上にあるフラワースクール「hana-kichi」ではレッスンも。
事業部名の「ER」が大文字なのは、人を表す(~ER)、また現代人には緊急(ER=緊急処置室)に緑が必要という意味を込めて。

感性と科学の力で「なんかいいなの壁」を超える。

「この会議室に来ていただくと、100人中95人くらいは、やっぱり緑はいいですねと言ってくださいます。ただ、わざわざ足を運んで、五感でよさを感じてもらえないケースも増えてきました。植物を入れるのにはお金もかかるので、それなりの効果も求められます」

植物がいいことはなんとなくわかっている、では実際に何がいいのか。梅澤さんはこれを「なんかいいなの壁」と呼んでいて、そこでビジネスが止まってしまうことがよくあったと話す。 そこで、parkERsは、パソナ・パナソニック ビジネスサービスと日本テレネットの3社合同で「COMORE BIZ(コモレビズ)」というオフィス緑化プロジェクトをスタートした。

コモレビズは、AIやアルゴリズムを駆使して植物の設置や設計を行うのはもちろん、日々のメンテナンス、さらにバイタルセンシングなどで社員のストレスを可視化する最先端のサービス。

脈拍などのバイタルデータと心理データを計測し分析することで、視界に10〜15%緑が入ると、ストレスが平均で11%下がるというエビデンスを国立大学の基礎研究から得られた。こうしたサービスを商品化したのは、おそらく世界でも事例を聞かないという。

コモレビズ導入第一号は、メガネブランドのJINSが手がける、“世界一集中できるコワーキングスペース”「Think Lab」。

「植物の効果・効能を書いた論文は世界中にありますが、商品化の壁は高かったですね。ここだけの話、今回の基礎研究を聞いたときも、最初は少し怪しいと思ったくらい(笑)。でも今では、僕たちの科学(理論)どおり設計すると、ほぼストレスが下げられるというところまできました」

3DのCADソフトと連動し、近い将来、図面上に植物をプロットしただけで、そこで働く人のストレスの変化がわかるように。また、非接触でのバイタルセンシングといったテクノロジーも取り込みながら進化させていくそう。

「ちなみに、僕たちのオフィスはコモレビズがスタートする前にデザインしたものですが、あとから計測してみたら理論どおりだった。感性と科学が一致していたことにびっくりしました。僕たちは感性優位のチームなので、今後もかっこいいね、しかも科学的な裏付けもあるんだ、というのを追求していきたいと考えています」

吊りプランターから水面の波紋の形を床に映し出すプロダクト。
研究により、ストレスを下げる植物、上げる植物もわかってきたそう。
オフィス内では、植物の育ち方を実験中。湧き水のような水の音が心地いい
土の量なども計算されてデザインされたミーティングテーブル。

“ブランディング”≦“ワーカーのため”の緑。

parkERsやコモレビズによって、オフィスを緑化した会社からよく言われるのは、「印象がよくなって求人が増えた」とか「離職者が減った」ということ。

「植物って好感度がとても高いんですよ。実際、空港などで国籍も宗教もわからない人と話すとしたら、きっかけは天気か植物くらいしかない。どこの出身かという話も、場合によってはナイーブですよね。でも、『今日天気いいね』『この花きれいだね』は誰も傷つけない」

以前は「エントランスを緑でおしゃれ」にといったように、主に企業としてのブランディングを求められていた。それが最近では、「執務スペースに従業員のために緑を入れたい」というお客さんのほうが多くなったそう。

「現代人は、1日の85%以上を室内で過ごすといわれています。だとすれば、家やオフィスなど、長い時間過ごすところを緑化することで、より人間らしさ、自分らしさを発揮できる環境がつくれる。世界的にも、まだ屋内緑化をデザインする有名な企業はないので、そこで一番になりたいですね」

parkERsは、スペシャルデイ(一生に一回)ではなくエブリデイ(日常)に近いドメインを大切にしている。きっかけは花屋でも、オフィス空間でもいい。「日常を花や緑で豊かにすることが、人々を豊かにすること」というのがポリシー。

「たとえば、オフィスビルのエントランスに小さな観葉植物をたくさん並べて、デスクに自由に持っていって2週間育てる『トラベルプランツ』という企画をしたこともあります。こういう取り組みをしてみて面白かったのは、営業成績がよい人ほど枯らさない傾向があるということ。それから、プライベートでの観葉植物の育て方は、その人の恋愛傾向に似ている。これ、エビデンスはないですよ(笑)」

カフェから出たコーヒーの豆カスなどを再利用し、廃材だけでオリジナルの土をつくる。

文明の進化に反作用するように人間は自然を求める。

「もしこの先、月や火星を開発したとしても、多くの人はあの砂だらけの風景の中に住みたいとは思わないのではないでしょうか? 僕たちは人々が必要としているところに、人類のソリューションとして植物を差し伸べて、植物と人が共存共栄する世界をつくっていきたい。それがパーカーズの想い……いや、僕だけかもしれないですけど(笑)」

人間がサルから現代人になるまで、700万年ほど。そう考えると、99.9%の時間は、自然の中にいたわけで、コンクリートで囲まれるようになったここ200〜300年は、生き物にとってストレス状態でしかない、と梅澤さん。

「だから休日になると海に行ったり、山に行ったり。それって、本能的な自然回帰だという学者もいるくらい。2050年頃の各国の都市計画を見ると、ものすごく植物だらけなんですよ。テクノロジーの進化に反作用するように、人間は自然を求めている。文明の進化に、空間の回帰。すなわち近未来のリアル世界は“プリミティブに進化する”。それが、僕たちの仮説。オフィス空間も、そういう方向に進みつつあると思います」

information

parkERs
2013年7月に、パーク・コーポレーションの空間デザイン事業部として設立。設立から5年目を迎える2018年は「青山フラワーマーケット ティーハウス」を統合し、カフェ事業にも参入。「味覚」、そして季節感のある花と食の追求を強みに、「五感」「空間と時間」をデザインするブランドとして、海外からも注目されている。

インスタグラム
@parkers_official

Aoyama Flower Market TEA HOUSE
http://www.afm-teahouse.com/

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