REWORK

新しい働き方 / 営み方を実践するメディア

「WORK」から「PLAY」へ。トークイベント「理想のオフィスのつくり方」

港区のインテリアショップ「リビング・モティーフ」で行われた企画展「LIVING MOTIF WORK+ 理想のオフィスのつくり方」(2月2日〜3月21日)。2018年2月28日にはトークイベントが開催され、「REWORK」編集長・馬場正尊と、デザイン事務所・サカキラボのサカキテツ郎さん、アウトドア家具ブランド「extremis」を展開しているtistouの平田倫子さんが、オフィスのもつ可能性について語り合った。機能性重視から遊び心のある空間へとシフトしつつある、オフィスのインテリアの現在と未来とは?

3人の働き方を通じ、理想のオフィスを考える。予定数を上回る多くの参加者が集まった会場。

オフィスも、「働く」という概念も、変わりつつある。

トークイベントに登壇したのは、従来のオフィスとは一線を画する空間で、新しい働き方を実践している3人。まずは建築設計事務所「Open A」代表でもある馬場が、オフィス空間について考えるきっかけとなったという、勝どきの巨大倉庫をオフィスにリノベーションした事例を紹介。

運河に面した勝どきの倉庫をリノベーション。(現在は再開発のため移転)
「THE NATURAL SHOE STORE」のショールーム兼オフィス
人気が高い運河沿いのデッキ席

「その会社は、世界中から快適な靴を集めたセレクトショップ。心地いい商材を扱う会社は、心地いい空間で働いていなければと思い、『Office as living』をコンセプトにリノベーションしました。巨大な空間にガラスキューブを置いて、半屋外のラウンジや運河に面したデッキをつくって。気持ちいい空間は人をポジティブにするのか、ここで商談をすると成約率がすごく高いんだそうです(笑)」

 

働く空間の変化を象徴していたのが、ここで起きた2つのできごと。ひとつはあるオフィス大賞の審査員に「ここはオフィスとは言えない」とノミネートを却下されたこと。もうひとつは、ドイツのコンフォートシューズメーカーが代理店を再考するために訪れ、「日本のエージェントはここだ」とオフィスを見て即決したというエピソード。これまでのオフィスの評価や、企業を表現する場としてのオフィスのあり方を考えはじめた馬場は、浅草橋の古いビルをリノベーションし、自ら実験的な働く場をつくることに。

公園のようなシェアオフィス「Under Construction」。
ソファでゆったりと考え事をしたり、キッチンカウンターで仕事をしたり。
洞窟のようにこもれるファミレス席。

ニューヨークにある『ブライアント・パーク』で、気持ちよさそうに仕事をしている人の姿を見て、公園みたいな場所で働きたいと思った。多様な人が多様な働き方のできるオフィスは、公園のアナロジーです。一口にミーティングといっても、集中したいときもあれば、軽くブレストしたいときもある。公園で遊具を選ぶがごとく、ふわふわと漂いながら仕事をする空間にしました」

 

天井高4m、広さ130坪のシェアオフィスには固定席もフリーアドレス席もあり、共用の大きなキッチンを置いて、空間全体をパブリック化。キッチンを中心に置くアイデアは、登壇者のひとり・サカキさんのオフィスにインスパイアされたのだそう。

 

三菱地所レジデンスと共同で、古いビルを再生する『Reビル』という事業をやっているんです。Open Aで手がけた神保町の物件は、入居者が自分勝手につくり込めるような、想像の余地がたっぷりある空間にしたんですが、そこにやってきたのがサカキラボ。大きなキッチンを中心に、すごくすてきな働き方をされていて、まさに僕が妄想していたような働き方を具現化しています。こんな感じで、いつも新しいオフィスの姿や、働くということの新しい概念を妄想しているんです」

即決で決めたというオフィスとの出会い
リノベーション後のスケルトン状態。入居者が想像する余白を残した空間。
カウンターに囲まれたキッチン。オフィスの半分をキッチンとミーティングスペースが占める。
日常の業務が行われるデスクスペース。

仕事と遊びをシームレスにつなぐ、キッチンのあるオフィス。

次に自らのオフィスの事例を紹介したのは、デザイン事務所の代表を務めるサカキさん。もともと三菱地所で働いていて、ニューヨークやロサンゼルスでビルのリーシング事業に携わり、さまざまな職場のあり方を目にしてきたそう。独立して最初に借りた事務所が建て替えをすることになり、次を探していたときに出会ったのが、現在入居している物件。REWORKでも紹介している「LAB and Kitchen」と名付けられたこのオフィスは、どのように誕生したのでしょうか?

 

「210㎡のワンフロアが魅力的で、これならキッチンをつくれると、ほぼ即決しました。なぜキッチンかというと、三菱地所時代、寂れていた丸ノ内エリアに人を呼ぶために『丸の内カフェ』というフリースペースなんかをつくったんです。そこで、『食』をテーマにすれば人が来ることを実感して。僕自身は食べる専門だったんですが、正直、ノリでキッチンをつくりました(笑)」

 

広い空間の中央にあるキッチンは、三方をカウンターに囲まれて、飲食店のような雰囲気。ここで打ち合わせをすることもあれば、さまざまなイベントを行うこともあるそうで、「滋賀県の発酵食品と日本酒イベント」「わたしたちのタイフェス」「ビール&餃子フェス」などなど、これまでに開催したイベントの数は3年間で約250回。延べ1万2000人もの人がオフィスを訪れて。

 

「キッチンをつくってからは、地獄のような日々で(笑)。オフィスには5人のスタッフがいて、イベント専門ではなく、いつもはパソコンで黙々と仕事をしています。それが、だんだんみんなの目の下にクマができはじめ、僕は飲み過ぎ・食べ過ぎで、ちょっと病院に行ったりもして(笑)。それでもイベントをやるのは、僕らはオフィスをみんなに提供できて、集まった人たちは新しいお客さんや話を連れてきてくれるからなんです」

 

食に時間とお金をかける人とは、価値観が近いと感じるとサカキさん。イベントに来た人と仕事でコレボレーションすることも多く、サカキラボでは「食を通して出会った人と、楽しみながら仕事をするスタイル」ができつつあるそうだ。

ステージのようなキッチンでゲストがおもてなし、つながりが新たな仕事を生み出す。

仕事の場で求められている、「人々が集うツール」とは?

ベルギー発のアウトドア家具ブランド「extremis」がオフィスで導入されている事例を紹介したのは平田さん。もともと花器などを扱っていたところ、ふとしたことから「extremis」の代理店になることに。「大きくて重くて、日本の住環境に合わない」と思っていたところ、アウトドアではなく、企業からオフィス家具として使いたいと発注があったことに驚かされたそう。以来、約10年にわたり、半分以上の発注が室内空間で使用されている。

 

「グーグルなど、日本だけでなく世界中のオフィスでアウトドアの家具が導入されています。なぜこんなに支持されているのか? 『extremis』のコンセプトは『tools for togetherness』。創始者でありメインデザイナーでもあるディルク・ワイナンツは、家具ではなく『人々が集う時間の価値を向上させるためのツール』をつくっているんだといつも言うんです。彼がインスピレーションを受けるのは、雑誌でもなくテレビでもない、いろいろな経験をもっとも大事にしています」

 

たとえばビールづくり。庭で育てたホップを醸造所に持ち込んでつくり、今ではミラノサローネの名物に。また、世界各国で「人々がどう集っているのか」を観察したり、社会の移り変わりに関心をもったりすることも、重要なデザインソースだそう。人生で重要なのは家族や友人と過ごす時間であり、デザインが担うのは人々の生活を向上させること。そんなスタンスから生み出された家具が、現代のオフィスで求められるように。

 

「アウトドアの家具がオフィスに向いている理由はいくつかありますが、まず掃除がしやすいんです。防水の生地を使っていたりするので、少々ワインをこぼしても大丈夫。あとは、テーブルと椅子が一体化しているものが多いので、空間を美しく保ちやすかったりもしますね。最近はオフィスだけでなく、学校で導入されていることも多いです」

 

最後に紹介したのは、「extremis」を含め現在4ブランドのプロダクトを扱う自身の会社「tistou」の職場。蔵前のオフィスは、1階にショールーム、2階はイベントスペースも兼ねた、約300㎡の広さのオフィス。ショールーム奥には幅4mのバーカウンターを設けているほか、最近では子育て中の社員のために子どもを連れてこられるようにしたのだそう。

蔵前にある「tistou」のオフィス。
人々が集うための家具はアウトドアでもインテリアでも共通した心地よさを提供する。

オフィスデザインと組織のあり方が融合した社会へ

続いて行われたのは、3者のクロストーク。まずは共通している「食」について、「キッチンといえば給湯室だったのが、仕事場の中心になっている。価値観の逆転を象徴している」と馬場が指摘すると、「展示会でビールを飲んでもらって、楽しい印象をもってもらえれば、いずれ何かの形でつながるんじゃないかな」と平田さん。さらに、「外で飲み食いするよりも、オフィスは気軽だし、食を通じてもっと先のコミュニケーションが生まれるんです」とサカキさん。

 

「飲み会の場で話すことって、ほとんど実現しないじゃないですか。でも、オフィスなら、その場でデザイナーが絵を描くと、もう後戻りできない(笑)。仕事の質も変わってきて、グラフィックデザインが中心だったんですけど、最近は戦略を立てるというところから入っていくことが多くなりましたね」(サカキ)

 

「蔵前って、なんとなく遠い印象があるでしょう。でも、おいしいビールが飲めるとか、なんだか楽しそうと思ってもらうことで、訪れる人が足を運びやすくなったりする。今のオフィスになってもうすぐ3年目、実際に売上は伸びています」(平田さん)

 

「おふたりのオフィスは、企業の理念や姿勢が空間に表れていて、どんなプロモーションよりもメッセージ性が高い。そこで一緒にハッピーな体験をすれば、その後の仕事の進み方が決定的に違います。『働く』ということを、19世紀以前は『labor』、20世紀は『work』と言っていて、次は『play』と呼ばれるだろうという仮説があるんです。一緒に楽しむという延長線上で、これからは遊びが仕事化すると思う」(馬場)

 

最後に、参加者の方から「今日紹介された事例は、数十人規模の話。最近は同じ仕組みを導入する企業の規模が大きくなっているが、どうすればうまくいくか?」という質問が。これからのオフィスや働き方を考える上で避けられないこの課題に、それぞれが出した答えは……。

 

「実際にやってみてわかったのは、ハードだけでは解決できないことが多いこと。1000人、2000人という規模になると、テプラを貼って『元の場所に戻しましょう』なんてやらざるを得なくなる(笑)。だから、食堂のおばちゃんのような、核になる人の存在がすごく重要になるんじゃないかと思っています」(サカキ)

 

「たぶん、ここで紹介したような働き方をしたくない人もいるでしょう(笑)。こういう働き方を導入しようと“遊び場”を社内に無理やりつくっても、なかなか利用されないという会社も多いですね。でも、実際に新しい働き方を体験することで、『できる』と思えるんじゃないかな。そのきっかけづくりが必要なんだと思います」(平田)

 

「大きな企業と捉えるのではなく、小さな企業の集合体と捉えることはできないかな。個々の組織がマネジメントをして、競争していくかのごとく全体が構成されている。本当はコンサルティングとオフィスデザインが融合しないといけない。大企業だと、オフィス担当の総務部と戦略担当が離れているけれど、そこを一緒にやっていくような社会になればいいと思っていて。それは大企業からではなく、ベンチャーが育つプロセスの中で生まれていく気がしますね」(馬場)

トーク後はオフィスインテリアが展示される店内で交流会。
平田さんが持ち込んだベルギービールを飲みながらオフィス談義が弾む。
パラソル付きのテーブルは万博のスモーキングスペースとして開発されたもの。自然とカジュアルなモードに。

トークイベント終了後、1階の展示スペースに場所を移し交流会が行われた。
平田さんが取り扱う「extremis」の家具をはじめ、さまざまなモードに合わせた多様なオフィスインテリアが並ぶ空間で登壇者、参加者が思い思いに交流を深めた。

「理想のオフィスのつくり方」をテーマに繰り広げられたトークイベント。遊ぶように”働く”ことを実践する3人は、一つずつ実験を繰り返しながら新たなスタンダードを生み出そうとしている。効率を重視した社会が作り出したさまざまな境界線を緩めつつ、楽しみながらより質の高いパフォーマンスが作り出される環境をつくり出している。理想のオフィスとは、まず自分達が楽しく働けること。3人の共通する価値観から、インテリアだけでもソフトだけでもなく、一体となってオフィスをつくることが重要であると感じる場であった。

イベントの内容は、こちらから。

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