REWORK

新しい働き方 / 営み方を実践するメディア

「社食」と「食堂」の間にある、新しい「食」の形。

オフィスと食に関わる新たな取り組みを紹介していく連載。第2回目は、建築家の谷尻誠さんと吉田愛さん率いる建築設計事務所「サポーズデザインオフィス」が手がけた「社食堂」。実はこの場所、一般のお客向さんのレストラン&カフェでありながら、事務所に併設された社員用食堂でもある。

「社食堂」のメニューは日替わり定食が中心。この日は鶏肉の香草焼き定食を提供。

社員も近所の人も、いろいろな人が同じ場所に集う。

「会社の食堂」+「社会の食堂」=「社食堂」。この一風変わったコンセプトの飲食業態が生まれたきっかけは、事務所スタッフの健康のために“食堂”をつくりたいと考えたこと。

そこに「スタッフはもとより社会の健康をデザインしよう」というアイデアが加わり、一般のお客さんもスタッフも利用できる、事務所と一体となった飲食店が誕生した。並ぶのは、定食を中心としたメニュー。

「社食がベースですから、飽きないものをと考えました。結局毎日食べたいのは、炊きたてのごはんと味噌汁。だから“おかん料理”をベースに、魚か肉かを選べるようにして、野菜もしっかり摂れるように副菜も付けて。そのほかにパッと食べられるカレーや丼物があるという構成を最初に決めたんです」

サポーズデザインオフィスで共同代表を務める吉田愛さん。

社食堂の営業は11時から21時まで。事務所のスタッフはお昼の時間になるとみんなでテーブルを囲んで、一般のお客さんと同じ空間で食事を摂る、というスタイル。

一般向けも社員向けもメニューは同じ。ちなみにシェフはジョエル・ロブション出身で、「フレンチの技を封印して、定食をつくってもらっています(笑)」とのこと。

「食堂」という懐かしい響きに合わせ、食器はベーシックなものを選び、飲食スタッフはエプロンを着用。鉄の梁が縱橫に走るミニマムでスタイリッシュな空間とのギャップが面白い。「ミーハーだから、カフェ付きのオフィスに憧れていたんです(笑)」と語るように、食堂と事務所スペースが、シームレスにひとつのフロアでつながっている。

入口側が食堂スペース。棚にはBACHの幅允孝さんがセレクトした書籍が並ぶ。
アイランド型の厨房を挟んで、奥側がオフィススペース。
厨房では飲食スタッフが腕を振るって、社員用の夕食を準備中。
閑静な住宅街に佇む社食堂。

「社員のための食堂に一般の人も入っていいよ、という感覚でやっているんです。実際にいろんな人が来てくれて、本社がある広島の友だちがふらっと立ち寄ってくれたり、ランチミーティングをしたり。オフィスとは違って、いい距離感で遊びに来てくれる。近所の会社の人がランチに利用してくれているのも、すごくうれしいですね」

食堂の機能のほか、ブックディレクターの幅允孝さんがセレクトした書籍が本棚に並び、ギャラリーとしての機能も備える。社食堂は、「食」を軸としてさまざまなものが混在している場所だと吉田さんは言う。

「ジャンルを越えていろんなものと接続しながら、モノをつくっていくスタイルでやっていきたいと思っているんです。社員はもちろん、近所の人もいれば、業者の方や友人、いろいろな人がいる状況をつくる。そういう新しい働き方の実験をしているような感覚もありますね」

事務所のスタッフが働いている様子を身近に感じることができる。

食堂が、働き方も、社内の空気感も変えた。

社食堂がオープンしたことで、事務所スタッフの働き方にも変化が起こった。食の環境が整ったことで生活リズムが整い、食事を規則的に摂るようになったのはもちろん、遅くまで仕事をすることも減ったのだそう。

「事務所の空気感がよくなってきた気はします。それから、食堂があることで、クライアントや業者さんとも仲良くなれる(笑)。一緒にごはんを食べると、自然と仕事以外の話もしますよね。そうすると、相手のこともよくわかるようになるし、関わるプロジェクトの楽しさややりがいも変わってくる。仕事の醍醐味って、やっぱりそういうことかなと思って」

以前は、スタッフ全員で集まろうと思っても、スケジュールを合わせてお店を予約するだけでも大変だった。それが今は、日常的に食事をともにすることができるので、社内のコミュニケーションもより活発に。

厨房からは調理中の食事の匂いが漂い、食欲を刺激する。

「みんなでごはんを食べるだけでこんなに違うかというくらい。いつも一緒にごはんを食べていると、家族みたいな感じがして、相手のことを好きになるんですね。以前、人数が急に増えたときに、社内のコミュニケーションがすごく減ったことがありました。そうすると、本当に必要なことしか話さない感じになって。そういうギスギスした感じは一切なくなりましたね」

ちなみに、吉田さん自身、心身ともに健康的になってきていることを実感している。

「厨房からいい匂いがするからお腹が減って、昼は12時、夜は7時くらいに、ちゃんとごはんをとるようになりました。前は忙しいとついそのまま仕事をして、夜中にちょっと食べたりしていたんですが……。それって、一番太るやつじゃないですか(笑)」

食堂スペースでは、クライアントとの打ち合わせが行われることも。

「いいクリエイションを生む」福利厚生で、長く働ける環境を。

また、社食堂をつくったことで、経営者としての考え方も少しずつ変わってきた。以前は、手がけている仕事ではなく、福利厚生が整っていることを理由に入社したいと言われるなら、むしろ福利厚生なんていらないとさえ考えていたそう。

「設計事務所って、ここまでやって終わりというのがないから、どうしても長い時間働いちゃう。とくに若い頃は、何が正しいのかがわからなくなったりもするんですよ。せっかく働くのなら、気持ちよく仕事ができる状況があったほうが力を発揮できますよね。だから今は、いいクリエイションを生むための福利厚生なら、積極的にやりたいと考えるようになりました」

実際、社食堂に遊びに来たことがきっかけで、新しく働くことになったスタッフもいるそう。設計事務所では、スタッフは数年間の“修行”を経て独立していくのが一般的。そうではなく、スタッフが長く働けて自己実現できるプラットフォームのようにしていきたいと考えている。

「みんなが自分の会社だと感じて、長く働きたいと思えるなら、どんどんそこに投資していきたいですね。ただ単に福利厚生の一環というだけではなくて、設計のスタッフも飲食のスタッフも、それぞれがこの場所を使って、やりたいことを実現してくれたらいいなと思っています」

Shop Profile

社食堂
住所:東京都渋谷区大山町18-23 B1F
電話:03-5738-8480
営業時間:11:00~21:00(日・祝休)

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