壁一面に建築関連の本や雑誌が並び、ウッディな家具を中心にコーディネートされた明るく開放感あるオフィス。ビルの最上階にあり、ひとつ上の屋上は気分転換にもよく利用しているという。こちらのオフィスを選んだ第一の理由は、「物件のコンセプトに共感した」というもの。話をうかがううち、賃料や広さ、スペックだけではない、新しいオフィス選びの基準が見えてきた。
株式会社バウ・フィジック デザインラボ 一級建築士事務所
業種:建築設計、コンサルティング
創立年:2012年7月
入居時期:2017年2月
社員数:5名
個人住宅から商業施設まで、さまざまな建築の設計を手がけるバウ・フィジック デザインラボ。設計だけでなく、ドイツ語で建築物理学を意味する「バウフィジック」をキーワードに、風・光・熱・エネルギーと建築計画やデザインとの関係についての研究も行っている。代表の二瓶さんは、同社を技術支援する傍ら日本大学理工学部建築学科で講師も務めているそう。
50㎡ほどのオフィス空間には、建築事務所らしく模型がたくさん置かれ、建築や研究テーマに関わるさまざまな本が並ぶ。二面採光で天井が高いうえ、白く塗られた天井の木毛板(もくもうばん)のおかげで明るく、数字以上に広さが感じられる空間だ。
二瓶さんは6年前に当時勤めていた建築事務所から独立、最初は渋谷のシェアオフィスに入居。その後湯島に場所を移し、2017年2月にこちらのオフィスに移転してきた。
「仕事で三菱地所レジデンスさんとご一緒することがあって、同社が手がけるReビル事業を知りました。既存のビルを、ただいい感じにリノベーションするだけではなく、キッチンやサンルームといった働き方を変えるような付加価値も加えていく。古いものを活かして価値を上げるというコンセプトにとても共感しました」
話を聞くうち、同事業のビルに入居したいと考えるように。「空きが出たら知らせてほしい」と伝えていたところ、タイミングよく、現在入居する「ザ・パークレックス 岩本町ビル」を紹介されたそう。
オフィスを探すときには、まずはだいたいのエリアを決めて、そこから広さや賃料といった希望の条件で絞り込んでいくというのが一般的。二瓶さんの話を聞いていると、そうした探し方とは少し異なるようにも感じる。
「このビルがある岩本町は、CET(=セントラル イースト トーキョー)と呼ばれているエリア。建築・デザイン・アートなどのクリエイターが集まるイベントが開かれ、最近はカフェやこだわりのあるお店も増えています。以前から注目していて、借りる前から、ここなら絶対面白くなるだろうと思って決めたんです」
決してどのエリアでもよかったわけではなく、もともと興味を持っていた街だったことも決め手のひとつ。二瓶さんの予想どおり、実際に移転してから街との間にさまざまなつながりが生まれている。
「このあたりには、飲食やアパレルなど同世代で頑張っている人たちが多いので、とても共感するし、刺激をもらっています。応援したいので、ふだんからよくご飯を食べに行ったり、覗きにいったりしていますよ」
「このビルに入居しているのは、言ってみればReビルのコンセプトに共感した人たち。みなさんクリエイティブな仕事や働き方をしているので、業種を問わず、そうした人たちと知り合えるのも魅力ですね。以前いたシェアオフィスではよくやっていたのですが、入居者同士が交流できるイベントなどがあったらいいなと思います」
最近、大規模なマンションなどでは、コミュニティ支援のためのサービスを導入するケースが増えているが、オフィスにもそうしたニーズは高まっていく、と二瓶さん。
「どんな特徴のある街にあって、物件にどんな付加価値があって、どんな人が入居しているのか。僕らのような小さな規模の会社の場合はとくに、そんな視点でオフィスを選ぶケースが増えていくと思います。こんなつながりがほしいから、こんな働き方をしたいから、このオフィスを選んだというように」
エネルギーと建築という視点から考えても、これからは中古の物件でも新築と同じような快適さを担保できるようになっていく。今後はさらに新築と中古のボーダーがなくなっていくだろう、とも話してくれた。
プロダクトとしての差異が小さくなれば、自然と物件やオフィス選びの基準も変わっていくはず。これまでの賃料や広さ、スペックだけでなく、街をはじめコミュニティの魅力や、そこで叶えられるワークスタイルといった要素が、ますます重要になるのだろう。
このテナントが入居するビルの情報
暮らしながら働く (東京都千代田区岩本町)