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グリーンから生まれるコミュニティ。有機的に働き、考え、居心地のいい場をつくる。 東邦レオ 原田宏美さん インタビュー

東京・九段下の一等地であり、文京地区として学校や住宅が立ち並ぶエリア。早稲田通りを歩いていると、突然豊かな緑に囲まれたスパニッシュ洋式の建物が姿を現します。

今回訪れたのは、2018年に会員制のビジネスイノベーション拠点としてオープンした「九段ハウス」。もとは財界人である5代目山口萬吉氏の私邸として1927年に建築された建物で、東急、竹中工務店、東邦レオの3社によってリノベーションされ、歴史的建物の文脈を紡ぎ新たな息が吹きこまれました。

オープン後の運営を担っているのは、東邦レオグループの株式会社NI-WA。次世代ビジネス創出のプラットフォームとして多様なビジネスパーソンが集まり、さらには文化発信基地としてファッションやアート系のイベントが行われることもあります。

2018年からは「登録有形文化財」として登録されている。

東邦レオといえば、都市緑化技術を駆使した屋上緑化や壁面緑化、外構デザイン事業の最先端を走る企業ですが、近年では「コミュニティ・ディベロップメント」を掲げ、グリーンを基軸とした運営事業まで積極的に行っています。今回、かねてよりその存在が気になっていたオープンエー代表の馬場正尊は、インタビューの機会を得て東邦レオの拠点のひとつである九段ハウスを訪ねました。

九段ハウスの庭園。取材時には、建築家・石上純也さんによる焼杉を使った現代アート作品「木陰雲」が設置されていました。

お話をうかがったのは、オープンスペースの設計や運営企画を担当する、クリエイティブリノベーションチームの原田宏美さん。建物の前には趣ある緑豊かな庭園が広がり、木々のざわめきや鳥の鳴き声を背景に対話が進んでいきました。

時代に沿って柔軟に変化してきた事業の歩みとは。どのような思いで空間をつくり、企業として今後はどんな方向を目指しているのか。話は予期せぬ方向に展開されていき、東邦レオの有機的でチャレンジングな思想が浮かび上がってきました。

原田宏美さん プロフィール

千葉県生まれ。2001年から2005年、千葉大学園芸学部にてランドスケープデザイン専攻。在学中、交換留学生としてアメリカニューヨーク州立大学でアートを学ぶ。2005年から2007年、東京大学大学院農学生命科学研究所にて都市計画を専攻。2007年東邦レオ入社。3度の育児休業を経て、現在はオフィスリノベーションや暫定地のプランニング、設計、空間演出を担当。青山ビルヂング(2017)、NBF品川タワー(2019)、バスあいのり3丁目テラス(2020)の設計施工に関わる。

緑を通じて、企画から設計、運営まで担う 「コミュニティ・ディベロップメント」

馬場 ここは都心のエアポケットですね。緑が豊かですごく気持ちがいい。

原田 今日はお越しいただきありがとうございます。

馬場 こちらこそありがとうございます。実は以前から東邦レオさんの活動に興味があって、お話をうかがってみたいと思っていました。

最近「都市の自然化」というテーマに興味を持っています。近代の100年は人間が鉄やコンクリートで自然を無機物化し、都市を均質化してきましたよね。

ところが今回のコロナも示唆的だった気がしますが、次の100年で人間はもう一度都市を自然化したがるのではないか、とそんな印象があるんです。とはいえ、人間は一度手に入れた便利さを手放すことはしませんよね。不便な自然に戻すのではなく、自然を導入しながら必死にコントロールしようとする。だけど自然はそんなに甘くなくて暴れようとする。その均衡の中に生きていくような気がするんです。

馬場 御社はあらゆる実践を通じて、都市の中で自然とどう付き合っていくかを模索しているのではないかという印象があります。原田さんのプロフィールも興味深く気になるところですが、まずは御社がこれまでどのような歩みでどんなプロジェクトを展開してきたか聞かせてください。

原田 まさにお話にあった通り、弊社は1965年の創業以降、高度成長期にのって鉄とコンクリートのまちをつくる後押しをしてきました。遮音や遮熱に有効な「黒曜石パーライト」という資材を製造・施工してきたのですが、それが緑化の土壌改良材や軽量材として使えると発見し、40年前に緑化事業を立ち上げました。それ以降は、屋上や壁面などそれまでつくれなかった場所に緑地がつくれるようになり、緑化事業を伸ばしていきました。

馬場 まだ40年前の出来事なんですね。

原田 2001年に東京都が自然保護条例を改正・施行し、屋上緑化を義務化したことや愛・地球博の開催により、壁面緑化技術が普及したことで、都市に自然を取り入れる流れが加速したという背景もあります。私は2007年に入社したのですが、当時は屋上緑化をどんどん進めながら、同時につくられた緑地を完成後もいかに価値を高めて使っていただくか、ということにチャレンジし始めた時期でした。

原田 2005年にできた小田原駅直結の「ラスカ小田原」という施設がターニングポイントになったと思います。JRさんと協働のプロジェクトで、弊社で初めて大規模な屋上庭園をコンセプトから設計まで一貫してつくり、そのメンテナンスからイベント運営までをやらせていただきました。

馬場 コンセプトづくりから運営まで。一気にそこまで手がけたのですね。

原田 そうなんです。入社してすぐにラスカ小田原のメンテナンスのため、先輩と一緒に現場でお花の植え替えをしながらお客様とコミュニケーションをとって屋上庭園での過ごし方を聞いたり、剪定したハーブを持ち帰っていただいたりしたのが、いまでも忘れられない出来事として残っています。さらに植物にちなんだワークショップを開催したり、こうした活動が集客につながり施設からも応援をもらっていろんなイベントを運営して、いくつも実験を繰り返していきました。

それ以降、この15年で管理や運営まで担うプロジェクトが増えていきました。いまでは全国で70くらいの商業施設の運営、200くらいのマンションや大規模住宅の植栽管理からコミュニティ運営までを行っています。

馬場 そんなにたくさんやられているのですね。

原田 「アートを通じたコミュニティ・ディベロップメント」または「グリーンなライフスタイルのまちづくり」と掲げていますが、グリーンとは単に植物を意味するのではなく、五感を感じられたり、人と人をつなげるツールだと思っています。アートについては社会彫刻という概念で、コミュニティをつくることそのものを私たちはアートと考えていて、5年前に吉川稔が社長に就任してからは、さらにそこを加速させて取り組んでいます。

馬場 空間をつくる側にいたけれど、付き合い続けることになったのですね。

原田 そうですね。植物は植えた瞬間から根を張り育ち始めて、地中の環境を改善して地上でも人に良い影響を与えていきます。そうした特性をいかして、いかに場の価値を高める工夫をしていくか、そこにクリエイティビティが求められると思っています。

一人10役をこなしていく

馬場 最初はつくるのみだったところ、具体的にはどのような流れで運営にまで踏み切ったのでしょうか。

原田 2001年の東京都の緑化条例改正以後、特に緑に愛着がなくても、条例に従って仕方がなく屋上緑化をするビルが相当数ありました。最初はつくって引き渡して終わりだったのですが、何年か経って見に行くと荒れ果てた状態になっていることが多く、環境にいい自然を都市に増やそうと使命感でやっていたものの、私たちはゴミをつくっているような懺悔に駆られてしまって。つくったものを価値ある場所に高めていこう!と社内運動が起こったことも後押しになったと思います。ちょうど私が入社した頃の出来事です。

馬場 時代の必然と重なったんですね。

原田 勢いでつくり続けた都市をふと客観的に見たときに違和感を感じたというか。震災やコロナを経て、所有することよりも人との繋がりや体験が重要視されていく時代です。最初から完成品をつくるのではなく、未完成で仕上げて、運営に入りながら足りないものやそこから見えてきたものを補っていくという考え方でやっています。

馬場 植物は変わり続けるわけで、設計と運営を切り離すよりも一括でやるほうがいいものができるんですね。

原田 そうですね。さらにいうと運営がセットになることで、設計でもよりいい提案ができている気がします。

馬場 ぼくらの設計事務所も少しづつ変わっていて、設計が主ではあるのですが、最近はシェアオフィスや宿泊施設、シェアハウスの運営もしています。御社と同じく、場の運営を始めたらものの見え方は変わって、空間のつくり方や発想も変わっていると感じています。

馬場 ちなみに、植物のメンテナンスと場の運営ではノウハウが違うと思いますが、どのような仕組みで事業を成長させていったのでしょうか?

原田 私たちの会社の特徴として、一人10役ぐらいをやるんです。千葉県市川市塩浜のマンションで運営しているコミュニティスペースにはカフェがあって、社員がお店に立って接客もして、イベントの運営もして、植栽の手入れも同時にやります。ひとりの社員がいろんな動きをすることで、お客様からお悩みを聞いたときにすぐに動ける体制をつくっています。

馬場 そこが大きそうですね。日本は職業を細分化しすぎましたよね。本当は同じ人が複数の仕事をやるほうが、全体性を持って関われる。それを東邦レオさんは自然にやっていたわけですね。

原田 吉川の思いつきもあるのですが(笑)。

馬場 原田さんも企画設計から運営、イベント司会までやっていますよね。プロフィールを拝見すると、大学で造園を学び、アートの勉強のためにニューヨークにも一時留学されていて、そのスキルをいかして活躍されている。まるで導かれているように感じますね。

原田 たまたまご縁のあった東邦レオに入社したのですが、吉川が社長に就任してからは、グリーンの機能に限定せずコミュニティやアートの概念を持った方向性に変わっていきました。偶然の流れですが、自分がもともと目指していたことと会社の方向性が一致してきたという感じなんです。

原田 吉川はよく「今から5年後に同じ仕事をしている人が誰一人いない会社にしたい」と言っているんです。「ディパーチャー制度」といって、3年に1度くらいは所属が変わり必然的にいろんな仕事をする仕組みになっています。半強制的に役職を外して、ベテランであろうが新人であろうが明日から違う仕事をしてくださいと、その仕事先は自分で社内営業してください、というんです。

違う仕事をするのは効率的とは言えないかもしれませんが、本業から少しズレたことをやることで違う視点からの発想が生まれて、結果的に本業に生きてきます。そんなことを社内で意図的に仕掛けているんです。

社内には部活動のようなものがあって、例えば大塚にある東京事務所ではオフィスに来るきっかけづくりとして、毎週火曜日と金曜日に「レオ食堂」として夕ご飯会を開催して、その食堂のパパママを社員が交代制で担当しています。本当にいろんなことをする会社なんです。

都心の緑あふれる空間「九段ハウス」の挑戦

馬場 手がけられた仕事の中で、「都市と自然」または「働き方」に絡んだケーススタディがあれば教えてください。

原田 この九段ハウスはいい事例だと思います。都市の中にこうしたグリーンがあって、個人邸だったアットホームな空間で郊外にいるようなリラックス感を味わいながら新しい創造を生み出すインキュベーションセンターをやっていこうと挑戦中です。2020年12月からは、ここで30~40代向けのビジネスサロンをスタートさせ、メンターをお呼びしてファシリテーションをしながら場の運営をしています。

馬場 都会の緑の中で、実験場のように運営されているんですね。

2階通路。レトロな窓枠に切り取られた庭の緑はまるでアートのよう。
緑に囲まれ広々したバルコニー。

原田 作業場としての貸しオフィスではなく、人とのコミュニケーションによって新しい刺激が生まれたり、自然の中で五感を使った文化や教育プログラムを開催することで感性を高めて、そこから新しい働き方を打ち出していこうという思いです。2018年にオープンして、もう少しで3年の月日が経とうとしています。

馬場 2018年といえば、ぼくらもちょうどその時期にシェアオフィス「Under Constraction」を始めました。「屋根のある公園」をコンセプトにして、古い倉庫のビルをリノベーションしてやっています。空間や環境によって発想や思考は変わりますよね。

原田 変わりますよね。ここは貸し出しがない日は弊社の社員が仕事場として使うことも多いんです。こういった空間で感性を高めながら働くことで、提案内容が高まっていくような気がします。

ほかにも原田さんが担当した代表的事例の「青山ビルヂング」は、外空間を感性を高める場所としてつくったという。(画像提供:東邦レオ)
「家から外に働きに出てくる価値は、五感の刺激や人との会話から感性を高められることにある」と話す原田さん。ビルのガーデンでは、新しいテナント同士をつなげる交流イベントの企画をしたり、そこから施設内にある飲食店とのコラボレーションが生まれたりしているそう。(画像提供:東邦レオ)

ホップでエリアブランディング⁉︎

原田 品川に内装の環境計画をやらせていただいたオフィスビルがあり、最近そのオーナーさんとの新しい取り組みを始めました。ビルの外構を使ってホップを育て、クラフトビールを作っているんです。

馬場 ホップですか!

原田 ホップといえば岩手や北海道など寒い地域でつくられるのですが、収量を求めなければ都心でもできることがわかったんです。そこで3年ほど前から都心の施設でホップ栽培を始め、クラフトビール醸造までのプロセスを通じたコミュニティづくりに取り組んでいます。1年前には大阪に醸造所をオープンさせ、酒造免許をとった社員がホップ事業のリーダーとなって運営しています。

馬場 ホップ事業まであるんですね!

原田 はい(笑)。品川産のホップを使ってビールを仕込みました。ビールの味もラベルのデザインもビルのワーカーさんからの投票制で決めて、10月末には完成したビールをテナントさんにプレゼントしました。

原田 自分のビルでつくった自分たちだけのビールということで、みなさんが関心を寄せてくれています。来年はテナントさんも巻き込んで、ホップの栽培から一緒にやれたらと計画しています。

そうすることで「自分ごと」として、すれ違うだけだったワーカーさん同士に一体感が生まれたり、ビルに働きに行く楽しみができたり、ビルにいるアイデンティティを生み出していけます。これからは働くことと遊ぶことが混在していき、もしかしたら自分が働いているビルに家族を呼べるようになるかもしれません。オーナーさんもすごくやる気で、都内に複数ビルを所有されているのですが、各所でビールをつくって飲み比べてみたいとおっしゃっているんです。

馬場 僕らも公共空間の設計や公共R不動産などやっていて、設計と合わせて運営計画を立てることもあります。いまの話を聞いていて思うのは、使い手と運営者を分けず、使い手が運営にコミットして嬉しいと思えるような仕組みを最初から意識して計画していると、全然違う空間が出来上がるということ。視点を変えてみると、その考え方は公共の建物だけでなく、オフィスビルにも応用できるということですね。

原田 はい、そう思います。

原田 さらに視野を広げると、再開発が進んでいる品川エリアではビル単体が独立しているのではなく、いかにビル同士が連携してエリアの価値を高め合っていけるか、そこが課題になってくると思います。そこで、ホップでエリアブランディングをしてビル対抗戦でビールづくりができないかなとか、ビールフェスタを品川でできないかなとか、そんな妄想もしているんです。

馬場 つまりは植物を介してビル同士をつなごうということですよね。植物を育てるということは自動的にそのビルやエリアに関わることになって、コミュニティをまとめていくことにもなると。

原田 それがグリーンのおもしろいところだなと思います。お世話する必要があって、一致団結する要素になるというか。

馬場 今まではメンテナンスが大変=マイナス要素だったことが、逆にそれが新しい繋がりを生むのだと価値観をポジティブに変換したわけですね。それに気がついた公共空間やオフィス、商業ビルなどは価値があがっていく。つまり植物がいい感じにある場所は、コミュニティがしっかりしているということになる。

原田 そうですね。そして地域が違えば植物も違うので、ローカルのオリジナリティや魅力を打ち出しやすいアイテムにもなっていくのかなと思います。

馬場 僕も最近建築設計とオベレーションをどう繋いでいくかを考えていたから、すごく参考になります。

人の生き方が、未来の都市の風景をつくっていく

馬場 東邦レオさんは今後どのようになっていくのでしょうか。

原田 最近は「人の生き方で、未来の風景をつくる」をコーポレート・アイデンティティに掲げています。機械ができる仕事は機械がやり、発想こそが人に残された価値です。社員一人ひとりの「好き」を会社が後押しして、人の魅力が新しい仕事をつくっていくエンジンにできるかということにチャレンジしています。

社内では、自分でやりたいことはどんどん手を上げられる環境がつくられています。私自身も東京と山梨で2拠点居住をしているのですが、会社がそのライフスタイルを応援してくれるのもその現れだと思います。全然グリーンとは関係のないことをしている社員さえもいます。社員一人ひとりの個性を伸ばしていくことで、会社がどんどん時代が求めるかたちに変わっていくのだと思います。

馬場 もはや植物の話ではなくなっていますね。組織のあり方自体が新しい仕事を生み出していく。組織のかたち自体が提示されて、それが未来です、という考え方なんですね。

原田 ちょうど先日、吉川から「会社はある意味で学校です。失敗を恐れずチャレンジしていける環境を整えていくことが会社の役割。もがき苦しんでも果敢にチャレンジしてほしい」との言葉がありました。とはいえ簡単には失敗できないですけど(笑)。

馬場 これからは組織が柔軟じゃないと変化に対応できませんよね。働き方も、東邦レオさんがつくるハードもソフトもこれからますます楽しみです。今日はありがとうございました。

原田 こちらこそありがとうございました。

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