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オフィスから考える地方都市の未来。 静岡鉄道が挑む新しい働き方とは

2020年10月、静岡鉄道の始発地点のまち鷹匠に、静岡鉄道が運営するコワーキング・シェアオフィス「=ODEN(イコールおでん)」がオープンした。新たな交流やビジネスが生まれる拠点として、地域にすっかり馴染んでいるようだ。静岡県静岡市を拠点に100年以上も地域に寄り添ってきたローカル老舗企業の静岡鉄道が、なぜ自らの手で働く場所をつくったのか、今後どのように沿線地域と向き合っていくのか。

新規事業を創出する静岡鉄道株式会社不動産ソリューション事業部事業戦略課の大村光一郎さん、石川麻衣さん、関悠さん、百瀬郁泉さんに、「=ODEN」が目指す静岡鉄道の次の100年に向けた働き方や地域との関わり方についてお話を伺った。

インタビュアー:大村光一郎さん、石川麻衣さん、関悠さん、百瀬郁泉さん

(静岡鉄道株式会社 不動産ソリューション事業部事業戦略課)

聞き手:中島彩、瀧下まり

静岡鉄道の始発駅の新静岡駅から徒歩3分ほどの鷹匠エリアに位置する「=ODEN(イコールおでん)」。
今回お話しを伺った静岡鉄道株式会社不動産ソリューション事業部事業戦略課の皆さん。

地方都市×コワーキング・シェアオフィスの可能性

―=ODENプロジェクト(コワーキング・シェアオフィス開発)発足の経緯を教えてください 

大村さん 全国の地方都市が抱えている「人口減少」「少子高齢化」という問題に、私たち静岡鉄道が拠点とする静岡市も直面しています。今後縮小していくマーケットに対して、静岡鉄道のリソースだけでは沿線の活性化向上を目指すのに限界があるのではないか。

そんな厳しい現実を突きつけられた時、同じく静岡市を拠点とする企業や個人の人たち、そして首都圏の企業と積極的に交流するきっかけや場所をつくることで、新規ビジネスの創出やその新規事業が既存事業への相乗効果にもなり、沿線エリア全体への活性化につながるかもしれない。そんな拠点づくりが今の静岡には必要なのではないかと感じました。

また、静岡鉄道の本社がある静岡市鷹匠エリアは小さな個人経営の店舗が集まるまちですが、店舗間の交流やまち全体で連携できる場所がないという課題もありました。

地域にとっても働く場所であり、交流の場所ともなる拠点を作ろうという想いで今回のプロジェクトを立ち上げました。

―施設名称がとても印象的なこの「=ODEN(イコールオデン)」。名前の由来やそこに込めた思いを聞かせてください

石川さん この場所に集まってくる人たちは、みんなおでんの具のように一人一人が個性豊かな人材です。お互いの良い出汁を吸収し合い煮込み合う静岡おでんのように、静岡の名物となるビジネスが生まれてほしいという願いを込めて名付けました。=(イコール)をつけることで、みんなでおでんの具になろう!というメッセージもあります。

―とても親しみがある名前ですね

大村さん 静岡市と静鉄は、人口減少という共通の課題に向けて取り組んでいます。市長に静鉄の取り組みをプレゼンする機会があり、=ODENについて紹介したところ「名前が良いね!」と、すんなり受け入れてくださいました。今では、社員も「最近おでんはどう?」と気軽に話しかけてくれます。

また、地元の人や建物の前を通った人からはよく「ここはおでん屋さんですか?」と聞かれます(笑)。その度に説明することで、自然とこの場所の使い方が広まり、親しみのあるネーミングがより地域への発信力を高めていると実感しています。

大きな暖簾を掲げている1階はまるでおでん屋さんのような印象。

当事者を巻き込みながらつくる企画・設計プロセス

―企画・設計段階で大切にしたことや工夫したことは?

石川さん ただお金をかけて綺麗なものをつくるのではなく、どうすればいろんな人に使ってもらえるか、その先にどうしたら交流するきっかけが生まれるのかを考えました。

1階は仕事の合間や気分転換にふらっと利用できるシェアキッチンを中心とした、コワーキングスペースになっています。人が集まりやすい角地に大きなキッチンを配置し、自然と会話が生まれる設えを意識してつくりました。

1階のシェアキッチン周辺には、何となく集まって自然と会話ができるカウンター席やソファ席を設置。
キッチンから段差を上がると、社員たちが自らDIYで組立て・塗装をしたテーブルや椅子が並ぶミーティング・ワークスペースエリアが広がる。
天気の良い日に窓を開けると、より開放的な場所に。

大村さん 2階はフリーランスや地元企業・首都圏企業のサテライトオフィス利用を想定したブース席、会議室があるシェアオフィスです。ブースを区切る壁をあえて低めに設定することで、集中して仕事をするスペースの中でも交流が生まれるような工夫をしています。

また、設計段階ではイベントを企画。静岡鉄道の若手社員を対象にどんな使い方をしたいか話し合うコンセプトワークショップや、テーブルや椅子を組み立てたり色を塗るDIYワークショップも企画しました。

立った時に少し頭が見えるくらいの壁高さ(H=1600mm)で仕切られたシェアオフィス。
上の空間がつながっているため、挨拶をし合ったり壁から手を伸ばしてお菓子交換したりなど小さな交流が生まれている。

―まさに自分たちが働く場所を自分たちで作り上げていくプロセスですね。社内での反響や効果はありましたか?

大村さん 静鉄グループは鉄道事業のほか、不動産事業、ホテルなど多様な事業を展開しています。ワークショップに参加することで、普段は交流のない部署やグループ会社で働く同世代たちのコミュニケショーンを生み出すきっかけになりました。またDIYワークショップでは、実際に自分たちの手でテーブルや椅子を組み立てたり色を塗ることで、その場所への愛着が生まれ、今ではDIYワークショップ参加者を中心に社内イベントでも頻繁に=ODENが使用されています。

DIYワークショップに部署やグループ会社の垣根を超えて集まってきた社員たち。
ワークショップを通じて、普段あまり交流のない部署の社員同士が情報交換をする場面も。

働く場所が企業や地方を少しずつ変えていく

―=ODENがオープンして、社内の働き方や社員の中で変化したことはありますか?

大村さん オープンした時期はコロナ渦の真っ只中で、社内が完全リモート勤務に切り替わる時期でした。在宅勤務が広まる中、自宅で良好な仕事環境を確保できない人や気分転換に家以外の場所で仕事がしたい社員が=ODENを利用するようになり、次第に社内での利用頻度が高まっていきました。

本社勤務と大きく違うのは、部署間の壁がまったく無いこと。縦割り組織だった社内環境が、=ODENの利用者が増えることで自然と風通しの良い環境へと変化していきました。

石川さん それをきっかけに人事では静鉄グループでの社内兼業・副業の公募がトライアルでスタートしました。所属部署の垣根を超えて、静鉄グループ内で人手不足や繁忙期の部署や自分の興味がある業務を兼業できる制度です。

社内で人員を補えるという経済的なメリットもありますが、一番の魅力は今までなかったグループ会社同士や他部署と交流を深めたり、自分のスキルアップへと繋がったこと。会社全体がより柔軟な働き方へとシフトしています。

他にも今年の入社式は創立以来初めてのオフラインとオンラインのハイブリット型で=ODENにて開催しました。=ODENがあることで、「まず実験的にやってみる」という取り組みが今後も増えていくのではと思います。

社外との打合せやリモートワークの拠点として利用する社員たちの様子。
ワークショップ形式のミーティングやプレゼンテーションの場として利用することも。

―=ODENがあることで生まれたコミュニティや取り組みはありますか?

石川さん 入居者同士の中では部活動のようなコミュニティが生まれ始めています。

例えば、サウナ好きが集まって結成されたサウナ同好会や、その日に集まった入居者でお弁当を持って近くの公園や広場でランチ会など。また、近隣大学や専門学校の学生がサテライト授業や作品発表の場としても利用してくれています。そして、施設名称でもある「おでん」つながりで、静岡おでんの会と地元のクラフトビールとコラボレーションしたオンライン飲み会も開催しています。

入居者同士で趣味の話で盛り上がるシェアキッチン。
近隣大学でもある常葉大学の学生さんが近隣店舗を取材し、おすすめ店を地図にマッピングして紹介する「静岡まちごとテレワークマップ」。

―オープンしてまだ半年ほどですごく盛り上がっていますね。運営側で工夫していることがあるのでしょうか

石川さん 「おでんの具の会」と称して、=ODENにどんな仕掛けがあると使いやすいか、交流を作り出せるのか、定期的にアイデアミーティングを企画しています。

また、日常会話の中で出てくる「こんなのあったらいいよね〜」という意見も、出来る限り反映していけるように心がけています。

個人の目標と組織の成長が循環する仕組みづくり

―with/afterコロナにおいて、運営で工夫していることはありますか?

石川さん オープンして半年、オンラインとオフラインどちらも臨機応変に交流する場をつくってきました。今後しばらくはこの状況が継続することを見越して、対面で会うことは難しいけれど、=ODENという場所を通じて交流を深める手段はないかと探っています。

そこで今取り組んでいるのが、「よろしく交流会」。入居者メンバーの顔と自己紹介文を展示して、会えない中でも人となりを知ることができるというもの。今後は、入居者同士でおすすめのお店をシェアできるよう、周辺地域の大きな地図の設置を計画しています。掲示板のようにどんどん書き込んで、リアルに会った時により会話が弾むような仕掛けをつくっていきたいと考えています。

―今後=ODENでやりたいことや展望について教えてください

大村さん 直近では、近隣店舗と連携したイベント開催はもちろん、=ODENが新規事業を生み出すマッチングの役割を果たせるよう、店舗や企業を集めてイベントをどんどん企画していきたいです。最近では、“子育て”をテーマに、家族連れをターゲットにした5企業と一緒にイベントを開催。各企業の取り組みをブース形式で体験しながら紹介しました。イベントに出店することで、同じ分野で頑張る企業と繋がることができ、協働できるプログラムをつくっていく展開も生まれそうな予感がしています。

また、「鷹匠マルシェ」など地元企業や小売店、エリア全体を巻き込んだ地域イベントやプラットホームづくりもしていきたいです。

近隣企業5社が集まって開催した実証実験イベントの様子。
イベントを通じて自社のPRはもちろん、企業同士の繋がりやコミュニティが生まれている。

―=ODENを飛び出したコミュニティづくりまで、具体的に思い描いているのですね。

大村さん =ODENの先には「静岡鉄道沿線エリアの価値向上」というミッションがあるので、常にマクロな視点も心がけています。沿線エリアにとどまらず、静岡市や県内にあるコワーキングスペースやシェアオフィスと連携することで、県内在住者が好きな場所で好きな時に仕事をして、空いた時間に周辺エリアの観光もできる、オフィスと観光事業をセットにした企画ができないかと考えています。

実は今、静岡鉄道と=ODENの入居者のコラボレーションで初の新規事業を企画しているんですよ。静岡鉄道の終着駅がある新清水は、静岡市の中でも人口減少が甚だしく、町全体が衰退気味のエリア。そんな新清水をターゲットに、=ODENに入居している観光プラットフォームをつくる会社さんとコラボレーションして、地場産業の拠点をめぐるツアーを企画し、二次交通産業を静鉄グループでつないでいく。そんなシナリオをパッケージ化しようしています。

―まさに=ODENがなければ生まれなかった事業ですね。

大村さん 働く場所を共有するのは本当に大切だと思いました。問題点が発覚しても、どうしたら一緒に解決できるのか、会社を超えた一つのチームとして仕事ができる環境だと思います。

―最後に、静岡鉄道が考えるこれからの新しい働き方や暮らし方について教えてください

石川さん 一人でいろんな肩書きを持つ人がどんどん増えていくのではと思っています。実際に=ODENの入居希望者には、副業の拠点としたい人や、東京と静岡の二拠点で働く人が自然と集まってきています。今までのように、一つの会社に定年まで所属し続ける働き方ではない、新しい働き方を選んでいる人が多いんですよね。

大村さん 実際、私も静岡鉄道で=ODENの運営をして沿線活性化に向けた新規事業を考えながら、別の会社でレストランと宿泊施設を開発するプロジェクトにジョインしています。そこで得た知見をまた、静岡鉄道に還元できればという思いです。

働く場所が自由に選べる時代だからこそ、自分自身がどんな仕事を誰とやるのか、会社の垣根を超えて選択する。そこで得たスキルや結果を所属する会社に還元していく。個人のやりたいことと企業や組織の成長が循環する仕組みを、この静岡でつくっていけたらなと思っています。

―ありがとうございました!

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