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スタートアップと繋げて大手企業を“変態”させる。 有楽町 SAAI Wonder Working Community

2019年12月に始動した三菱地所による有楽町エリアの再構築プロジェクト、有楽町「Micro STARs Dev.(マイクロ スターズ ディベロップメント)」。

有楽町から次の時代を担うスターが生まれる仕組みをつくり上げていくプロジェクトであり、それを実現する舞台として2020年2月に会員制ワーキングコミュニティ「有楽町 SAAI Wonder Working Community」が誕生しました。

長らく会員制の企業ラウンジとして使われていた重厚な印象の空間。元々あった和室や折り上げ天井、シャンデリアなどを生かした空間デザイン。(撮影:阿野太一)

SAAIでは、事業創造アクセラレーターのゼロワンブースターが施設運営し、多種多様なイベント、コミュニティマネージャーのチーパパ・チーママ制度などのコンテンツのほか、プレゼンスペースやシェアキッチン、バー、御座敷など、アイディアや出会いを誘発する空間の仕掛けがあります。

ワークスペースにはとどまらない「ワーキングコミュニティ」として、多様な価値観を持った「個」が集い、新たな感性と出逢い、アイディアをカタチにするための会員制施設です。

これまでREWORKでお届けしてきたSAAIプロデューサー陣のインタビューシリーズに続き、今回はSAAIの運営にフォーカスしていきます。オープン以降、どのような人や企業がこの場を利用し、コロナという想定外の状況下で働き方にどんな変化や可能性を感じているか。SAAIを通じて、有楽町エリア、ひいては日本の未来にどんなベクトルを示していくのか。

SAAIの企画立案メンバーである三菱地所の辻直毅さんと、運営をする株式会社ゼロワンブースター代表の鈴木規文さんにお話をうかがいました。

(聞き手:株式会社オープン・エー 馬場正尊/文:中島彩)

三菱地所株式会社の辻直毅さん(左)と株式会社ゼロワンブースターの鈴木 規文さん(右)。2020年11月にインタビューを実施。(撮影:オープン・エー)
プロフィール

辻 直毅

三菱地所株式会社 プロジェクト開発部 副主事

2011年三菱地所株式会社入社。

入社後は東京と大阪でオフィスビルの運営管理を担当、新築ビルの開業準備や売却業務を歴任。2019年4月より現所属となり、有楽町エリアのまちづくりを担当。

 

鈴木 規文

株式会社ゼロワンブースター 代表取締役

1998年カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に入社し、コーポレート管理室長を経て、2006年アフタースクール事業「キッズベースキャンプ」を創業、取締役に就任するとともに、兼務にて株式会社エムアウト新規事業開発シニアディレクター。2008年同事業を東京急行電鉄株式会社に売却し、その後3年間における東京急行電鉄株式会社子会社でPMI業務に従事。2012年3月株式会社ゼロワンブースターを創業し、起業家支援、企業向け新規事業開発支援事業、投資事業を行っている。Global Accelerator Networkのfull member。

見直される場の価値。 “チャンスミーティング”を求めて

馬場 SAAIがオープンして約10ヶ月。今年は新型コロナの影響もあったと思いますが、運営が始まり、この場所にどんな人や企業がやってきて、空間がどのように使われているのか聞かせてください。

 2020年3月の緊急事態宣言の後は、2ヶ月ほど施設を閉じて会員募集も中止しました。再開後に会員は集まるのだろうか、みんなもう外に出ないのではないかと思っていたのですが、蓋をあけてみたら逆だったんですよね。いまはみなさんが家と会社以外の何かを得られる場をより強く求めているように感じています。実際に会員の問合せ数にも現れていて、コロナ前よりも同じか少し多いペースで会員数が伸びていることが何よりの証拠かなと思っています。

馬場 どんな人がどんなモチベーションで会員になるのでしょうか?

 基本的には一般企業にお務めの方が多いです。スタートアップ企業やフリーランスの方もいます。ただ共通しているのは、与えられた業務を粛々とこなしていくだけではなく、何か新しいことにチャレンジしていきたい思いを持っていること。新しい事業のアイデアやビジネスの種を探している人達がここに集まってきています。

馬場 一般企業の人の割合はどのくらいですか?

 半分ぐらいですね。

馬場 半分もいるのですね。それは企業から社員に加入をすすめるケースもあるのでしょうか?

 それはあまりないと思います。SAAIは原則個人契約としていますし、自発的な方が多く、当社(三菱地所)の社員ですら、一般の方と同じルートで会員になっている人もいます。

馬場 それはやはりルーティーンにはない何かがSAAIにあると思っているからですよね。

 そうですね。空間もそうですし、ゼロワンブースターさんがこの場にいることもそうですし、一般的な人気のシェアオフェスとは明らかに異なる場所だと入った瞬間に感じていただけているようです。

「自分がSAAIのペルソナなのではないか」というぐらい、辻さんもこの場所を通じてご自身に変化を感じているという。(撮影:オープン・エー)

馬場 会員の半分が会社員という数字は狙い通りだったのでしょうか?

鈴木 元々SAAIのコンセプトは「既存企業に所属しながら新しい価値を見出していくこと」なので、狙い通りです。ただSAAIに集まる大手企業の人たちは副業で法人を立ち上げていたり、プロジェクトを回していたり、すでになにか実践している人たちという傾向にありますね。

 これからもっとこの有楽町エリアのオフィスワーカーの割合を増やしたいと思っています。おそらくこのエリアで働いている人の大半は、新卒で入社して残業をたくさんすることが評価になっていたり、副業や兼業をする概念も薄いと思うので、そういう人たちに新しい価値観に出会ってもらえたらいいなと思っています。

鈴木 ここには複数の会社をやっていますという人もたくさんいますし、多様で個性的な人が集まっていますからね。一社でずっと頑張られている方にとっては、SAAIに来るとパラダイムに影響を受けると思います。こんな生き方もあるんだ、みたいな。

産業廃棄物をアップサイクルするプロジェクト「THROWBACK」のプロダクトが並ぶ。(撮影:阿野太一)

馬場 いま会員はどのくらいいるのですか?

 現在(2020年12月時点)は120人くらいです。運営やプロデューサーの皆さんも含めるとだいたい200人ぐらいの人が関わっています。メインは30代で、続いて40代の方も多いですね。

馬場 コロナ渦では、イベントや人が集まる企画はやりにくい状況でしたよね。

 SAAIでは感染対策をしっかりした上で、早めの段階から集客イベントを行っていました。なぜかというと、やはりSAAIにおいてはリアルな場こそが大切だと再認識したからです。施設を閉じた2ヶ月間はゼロワンさんがオンラインイベントをほぼ毎日のように企画してくださっていて、それはとても意味のあることでしたが、そのうえでやはり場の熱量もすごく大切で、画面を通しても伝わらないことがあると改めて実感しました。オフラインとオンラインを使い分けることを意識しています。

馬場 鈴木さんは運営の立場でずっと現場にいらっしゃったと思いますが、いかがですか?

鈴木 僕は働くという側面では、このコロナをポジティブに捉えています。やはり日本人はこのくらいショッキングなことがない限り変わりませんよね。

馬場 そうかもしれないですね。今まではいくら言ってもやれなかったリモートやワーケーションなどを、コロナになって企業が真面目にやり始めましたよね。

高度成長期の勢いが映し出されたような独特の空間の魅力を生かしたリノベーション。エントランス付近には、かつて帝国劇場で使われていた椅子などが活用されている。(撮影:阿野太一)

鈴木 ある一定期間、リモートを強制されたがゆえに、改めて場の重要性を考える機会ができたのではないでしょうか。整然としたオフィスに定時に行くといった概念ではないところに場の大切さがあり、人との関わり合いの中から何かが生まれるという価値感。今回で働き方のオプションが一気に“カンブリア爆発”して、そのオプションの中にSAAIがあることが極めて重要だと思っています。

馬場 作業するためだけの場所には行く必要がないんだと気がついてしまいましたよね。

鈴木 そうなんです。有名なアクセラレーターのYコンビネーターの創業者の方は「チャンスミーティング」という言葉を使いました。チャンスミーティングとは、ここに来るとチャンスが山ほどあって対話することでいろんなチャンスが降り注いでくるということ。それはリモートではなかなか成り立たない。たまたま隣にいた人に話しかけられないですから。

馬場 たしかにアメリカの西海岸でも、「ビジネスの種を探すならあそこのスタバに行け!」とか言われた時代がありましたね。“そこにいる”という状況こそが必要だというわけですね。

鈴木 SAAIはまさにそういう場所ですね。スターバックス創業者のハワード・シュルツがサードプレイスという戦略をとったように、会社でもない家でもない場所が必要で、そこからイノベーションが生まれると思っています。

馬場 なんとなく概念的には理解していたことが、コロナを通じてはっきりと体で感じられるようになったということですね。

イベントやプレゼンはもちろん、普通の会議でも使われている階段。大画面と距離が近く空間を立体的に使え、対話が生まれやすい空間。(撮影:阿野太一)

対話が促進されるプログラムと空間設計

馬場 鈴木さんは運営の立場でベンチャーやスタートアップの人たちをたくさん見ていらっしゃると思いますが、そういう人達のこの場所の使い方や動向はいかがでしょうか?

鈴木 僕らがやっているアクセラレータープログラムでSAAIを使っているので、スタートアップやベンチャー企業の人たちも多くここに通っています。スタートアップの事業づくりでは、いわゆるメンタリングを通じて育っていくので、ここに来れば自ずとメンタリングが始まります。

馬場 メンタリングとは?

鈴木 メンタリングとは日本語でいう「アドバイス」に近い言葉なのですが、自分のビジネスプランは自分だとなかなか評価できないので、他人に説明するプロセスを通じて反芻(はんすう)する必要があります。なおかつスタートアップのビジネスは答えがない旅で、人と対話しながら壁打ちしていくんです。それをやれるゼロワンのメンバーがSAAIに常駐しています。

馬場 まさに対話が促進されるようなプログラムで、SAAIをそういう空間にしようとしているわけですね。

鈴木 そうですね。だからここは単純に執務をする場所ではなく、やはり対話や雑談が生まれる場所ですね。本気の雑談です。

充実したシェアキッチン。こうした執務から外れたところで雑談が起きやすいという。SAAIには典型的な執務スペースはほとんど無く、バーやラウンジ、ダイニングなどの多様な空間が配置されている。(撮影:阿野太一)

 例えばシェアキッチンがよく使われていて、雑談が生まれやすい場所のようです。そういえば明日は、会員さんから呼ばれて「バー変態」で飲むんですよ。飲みながら自分のアイデアを聞いてくれないかと。

馬場 そんな感じなんですね。「ちょっと話しがあるんだけど」とバーに誘うけど、恋愛の話じゃなくて仕事の話。

 もちろん恋愛の話もOKです(笑)

鈴木 会員さん同士が雑談からつながって「じゃ一緒に何かやってみよう」という流れが生まれ始めているので、想定通りですよ。

馬場 運営サイドが仕掛けなくても、自然と広がっているのでしょうか?

鈴木 少しずつそうなってきていますが、それを促進させるためにコミュニティマネージャーというハブになる人がいて、新規会員の人を繋げたり、会員さんとのコミュニティづくりをゼロワンのコミュニティチームのメンバーたちがやっているんです。「バー変態」にはチーママがいて、チーママもその役割を担っています。

空間の中央に位置する「バー変態」。終業後、飲みに立ち寄る人もいる。そこで会員同士の交流や事業の話題が広がっていく。(撮影:阿野太一)

日本の価値筋は、大手企業が”変態”すること

馬場 SAAIの今後について、これからの活動のイメージや構想はありますか?

 当初から描いていた、ビジネスの種がここから生まれて、新しいサービスとして世の中に実装されていくことが理想です。そういう人たちの「SAAI出身なんですか?私もSAAIで事業の構想を練っていたんですよ!」といった会話が全国各地で行われていったらいいなと思います。

鈴木 ここから世の中のスタンダードになっていくような事業がいくつも生まれてくる場にしたいですね。

 都市の観点でいうと、ビジネスとは少し離れたアートの分野をこのエリアに持ち込もうという取り組みもやっています。

馬場 有楽町という街のブランド自体がそのようになっていくのでしょうか。

 そうですね。いろんなものが混ざりあっていて、一言では定義できない、多様性ある街にしていきたいですね。

鈴木さんが代表をつとめる、起業家の事業支援プラットフォーム「ゼロワンブースター」が運営を行っていること。それがSAAIの最たる強みとなっている。(撮影:オープン・エー)

馬場 これからSAAIで育ちそう、もしくは育てたい産業の種類はどのようなイメージでしょうか。

鈴木 ここは大手企業の集結地なので、大手企業の資源をうまく引き出そうと狙っていけるスタートアップが集まるとおもしろいなと思っています。つまりは、大手企業とスタートアップの融合です。それは大手企業の人たちにも新しい風を吹かせることだと思っています。

馬場 なるほど、おもしろいですね。この場所ならではの発想ですね。

鈴木 大手町に行くと出来上がったスタートアップばかりですが、そうではなく、まだできたてのスタートアップの人たちがここに集うようなイメージです。資金調達前のまだ初期のステージのスタートアップ企業で、大手企業の資源やネットワークで成長する事業。そうなってくると、どんな産業か絞る必要はないと思っています。

馬場 物理的な距離感とそれがフィットしているのがおもしろいですね。ビジネスの視点でエリアを見ると、大手町はそのど真ん中にあって、SAAIはそこから適度な距離がある。1.5kmぐらいしか離れてないのに、街の濃淡やキャラクターの差がでてくるんですね。

 街を歩いていても全然違いますよね。

馬場 そうですよね。そのストラテジーの拠点がここ有楽町のSAAIであることは、六本木や渋谷とかにあるのともまた全然違うし、他のコアワーキングスペースとも全然違う。日本の大手企業との絶妙な距離感というところがすごくリアルに感じますね。

鈴木 日本は経済の中心を圧倒的に大手企業が担っていて、そこに資源が埋まっています。その資源をある意味クレイジーなスタートアップが掘り返していく。そんな相乗効果が見たいんですよね。

馬場 なるほど。大企業の安定感と優秀な人材にクレイジーなスタートアップが入っていく。そこに日本の勝ち筋がある感じがしますね。

鈴木 そうなんです。大手企業のエスタブリッシュメントをいかに“変態”させるかがポイントです。元々日本は大手企業が強すぎて、中小企業は大手企業に上納するモデルだったわけですが、実は逆なんですよね。大手企業の人が“変態”しなくっちゃいけないんです。こっち側に来てくれないと。だから「バー変態」を作ったんですよ。

馬場 そうなったとき日本の変化は早そうですよね。ドラスティックに変わりそう。

鈴木 大手企業の人がスタートアップに出向したり転職する人がどんどん増えるのはものすごくいいことだと思います。

 僕もいつか出向してみたいですね。いきなり転職はハードルが高いので、出向する仕組みがあるといいなと思います。ベンチャーの仕事のスピード感や考え方などを学びたいです。

鈴木 今、国の施策としても、大手企業人材をスタートアップや地方企業等へ流動化させるような動きがありますね。

馬場 僕も出向の募集をかけてみようかな。

鈴木 いいですね。一年ぐらい来ませんか?とね。おもしろいことが起きそうです。

馬場 この一年の歩みやSAAIのはっきりとした軸が見えました。これからコロナがどうなっていくか見通しはつかないと思いますが、今後も先ほどのビジョンにむけて淡々と続けていく感じでしょうか。

鈴木 そうですね。このままやっていけば、きっといい結果が生まれるんじゃないかなと思っています。

馬場 また新たな動きがあれば聞かせてください。今日はありがとうございました。

 

SAAIの最新情報は、公式サイトからご確認ください。

https://yurakucho-saai.com/

有楽町micro プロジェクト・インタビューシリーズ
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