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パブリック化するキッチンの未来を考える

パブリックキッチンPJメンバー。左からOpenA大橋一隆、塩津友理、LIXIL 石原雄太さん、OpenA 馬場正尊、consulting & more / コクヨ 若原強さん、LIXIL 中村治之さん、伊藤愛さん

LIXIL、若原強さん(consulting & more / コクヨ)、REWORK(オープン・エー)によって、オフィスキッチンのモデルプランが制作されました。

※ 3社が共同開発したオフィスキッチンのモデルプランの詳細はこちら

今後はオフィスだけでなく、さまざまな公共空間におけるキッチンの在り方を考えていこうと、「パブリック・キッチンPJ(プロジェクト)」として、活動は進行しています。

今回のテーマは、パブリックキッチンのこれからについて。オープン・エーのオフィスキッチンで食事を囲みながら、変化していくキッチンの在り方、今後求められる機能やシーン、キッチンの未来について議論が弾みました。

OpenAの事務所にあるオフィスキッチンにて

キッチンはこれからパブリック化していく

馬場 アイランドキッチンはもはや普通ですが、もっと主張のあるキッチンとして、住宅の中にも今回発表したようなパブリックキッチン並みの迫力あるものを置くのはどうでしょう。コミュニケーションキッチンとも言えるのかな。

伊藤 働き方改革もあって自宅で仕事をする人も増え、働く場所と住む場所が流動化し、職住環境に変化が起こりつつあります。住宅の中でのキッチンの位置やサイズ、機能さえも多様に変わっていくかもしれませんね。

馬場 実際に房総の僕の家のキッチンは、今回のモデルプランほどではないけど、それに近い大きさがあります。もはやパブリックキッチンとも言える。

若原 最近は食のおすそわけとか、手料理を振る舞いたい人と手料理を食べたい人のマッチングサービスが出てきていますよね。今よりももっと不特定多数の他人を家に招いて食事をするシーンが増えそうな気がします。そう考えると、キッチンは奥まった場所じゃなくて、玄関に一番近い所にあって、プライベート空間と外との中間地点に設置することがどんどん増えていくのかもしれないですね。

馬場 そうですね。現状もシェアオフィスの共用部にあるキッチンは、そういう位置付けが多くなっている気がします。

大橋 今までなかった場所にキッチンを置いてみると新しいことが生まれそうな気がします。今オープン・エーで設計している案件では、イベントスペースにキッチンを併設する予定です。

伊藤 それいいですね。イベントを企画すると「ここに水場やカウンターがあったらいいのに…」と思うことが多いですね。

塩津 三鷹にレンタルキッチンスペースの「MIDOLINO_(みどりの_)」という場所があります。7つのキッチンがL字型に並ぶシェアキッチンで、食を通した創業支援の拠点になっています。

キッチンはそれぞれ「お総菜」「お菓子」「粉末」「ソース」製造の製造許可を取得されていて、利用者はそれぞれに許可を取る必要がなく、オリジナルの商品を試作製造したり、製品化したりして一般に販売することができます。街としても「つくれる人」を育てていきたいけど、創業するのはハードルが高いので、そのハードルを下げる目的があるそうです。

伊藤 素敵な施設ですね。

塩津 商品開発やパッケージデザイン、ブランディングのアドバイスや経営始動も一緒にやっているそうです。総務の人を共同で雇っていたり、失敗談をシェアしたり、食材のバトンタッチをしたり、それぞれ助け合いながら小さくビジネスをするコミュニティができているようです。

伊藤 それぞれ自分のペースで得意なところを活かして働く。これからの生き方で大切なことのような気がします。

馬場 「MIDOLINO_(みどりの_)」の事例は、街におけるキッチンのパブリック化。オフイスキッチンも給湯室という閉じられた空間から拡大してパブリックになっている。イベントスペースにも設置される。住宅でもキッチンがどんどん玄関に近くなってきている現象は、家庭用キッチンのパブリック化ですよね。キッチンがどんどんパブリックに振れているという時代が来ていますね。

キッチンはコミュニティ再生ツール?

馬場 キッチンはパブリックに向かっている大きいトレンドがあるので、オフイスキッチンをLIXILが商品化すれば、需要はあるはず。「パブリックキッチン」という呼び名で、廉価版をつくってマーケットを広げれば、家でも、街でもオフイスでも使われて、それなりの市場規模が見込めるのではないでしょうか。

伊藤 兆しが見えているのは確かです。しかし、企業としてはハードルが高そうですね(笑)。でも、実現できるとすれば、簡単に設置が出来るスタイルがいいなと。

馬場 そうそう。設置しやすいとか座りやすいとか、使いやすさが大切になってきますよね。高さの設定は難しいですけどね。我が家のキッチンは調理に合わせて高く設定しているから、キッチンでは食事がしにくいし、食事のポーズとしても優雅ではない。そのあたりを解決できるといいなと思いますね。

石原 トイレの世界も同じで、公共トイレは老若男女みんなが使いますし、障がいのある人と健常者の人では使いやすい高さが違って悩ましい問題があるんです。キッチンもパブリック化していくと、利用者やシチュエーションが多用になるので、高さの問題が大きくなっていきますね。

若原 天板が動くのか、床の高さを変えるのか、いろいろ工夫はできそうですね。床になにかをかますことで大掛かりな仕組みがなくてもできるとか。

大橋 キッチンは火や水周りが絡むので、いわゆる造作家具のように造作キッチンをつくるのは不安な点もあります。LIXILからパブリックキッチンが商品化されたら、大企業や自治体なども安心して導入できますよね。

馬場 そうだよね。

中村 かつてLIXILが思い描いていたキッチンは、料理好きなお母さんが家族のためにおいしい手料理を効率よく振舞う場所でした。だけど、パブリックキッチンの場合は、手料理が重要ではなくて、多様な人が集まってみんなでわいわい会話しながら一緒に飲食することがポイントだと思うんですよね。

馬場 キッチンが部屋で分かれていたり、壁に向いていたりすると、どうしても調理する人が孤独になりますよね。向き合って話しながら調理した方がいいはず。最近では換気システムが整っているから、昔ほどにおいを気にする必要もないし、距離があれば油飛びも気にならない。個人住宅をオープン・エーで設計するときは、アイランドキッチンがすごく多いんですよ。余裕ある面積が必要だけど、コミュニケーションでは有利なことが多いからすごく評判がいいです。

石原 テーブルに調理機能が付いているみたいなイメージが近いのでしょうか。

馬場 そんな感じです。

塩津 作りながら食べてもらうのって、場として幸せな雰囲気がありますよね。

石原 だからバーベキューって面白いんですよね。みんなで火を囲んで、作る人・食べる人が分かれていないから楽しい。

若原 みんなで作っていいし、みんなで食べていいし、食べる時間も作る時間も時系列に直列じゃなくて、混ざっていくみたいなイメージですよね。

馬場 オフイスキッチンでコミュニケーションが潤滑になったように、家庭に持ち込まれても同じ事かもしれない。家庭でもキッチンをコミュニケーションツールとして考えてみる。

伊藤 家族や地域コミュティの再生というか、潤滑にする装置が実はキッチンだった、と。

馬場 やっぱり食って強いんだなあ。

変わりゆく社会とパブリックキッチン

石原 LIXILでは長年「時短」をテーマのひとつとして取り組んできましたが、最近では時短じゃない世界も必要じゃないか、という声が出ています。

中村 以前はいかに時間を捻出していくかを考えていたけど、これからは時間を豊かに過ごすことがテーマになってきますよね。

馬場 今までの社会の評価軸は、「どれだけ短い時間で作業をやり切れるか」が大きかった。だけどこれからは、たとえ時間をかけてでも、いい回答やいい問いを導くことが大切。もはや時間はあまり関係なくなっている気がします。作業スピードはAIには勝てませんもんね。

塩津 将来的にAIが仕事をして人間は暇になるので、時間をかけてDIYしたり、子育てしたり、畑をやるようになるのでは、という意見もありますよね。

中村 時間の使い方がわからなくて困る「時間難民」も生まれてくる気がします。

伊藤 受動的に動いていたのを、能動的に切りかえるのは難しいですよね。

石原 時間の使い方が変われば、公共空間やキッチンを含め、さまざまなものの在り方が変わっていくのかもしれませんね。

若原 新しいテクノロジーとキッチンの掛け算にも興味があります。現状では、水・火気・換気などが制約条件になるじゃないですか。例えば、水の浄化技術のテクノロジーと組み合わせると、水の配管が関係なくオフグリットなキッチンが作れるかもしれない。そうなれば、オフィスビルでも公共施設でも導入しやすいと思うんですよ。

伊藤 給排水のインフラから解放されるのは大きいですよね。

石原 その技術は屋台にも使えますよね。

伊藤 可動式レンタルキッチンというサービスも出来るようになりますね。

石原 パブリックキッチンが目指すひとつの形ですね。

若原 新しいテクノロジーでいうと、いまスタートアップ界隈では、食とテクノロジーを組み合わせた「フードテック」というジャンルが盛り上がっています。例えば、新たなタンパク質源としての昆虫食や、生き物を殺めなくても肉が食べれるようになる培養肉の技術とか。3Dプリンターで食べ物を印刷したり、食事をデータ化して転送したり。

伊藤 食の新しいジャンル、興味があります!

若原 かなり最先端な例だと思うんですけど、その中のいくつかはきっとマスマーケットに展開されていく。そうなれば、キッチンのあり方も根本から変わることはあり得ますよね。

馬場 キッチンが必要なくなるか、もしくはコミュニケーションを取るためにあえて使うか。二極化するということかぁ。

石原 データでつくった食べ物ですか。それを食べるのが幸せかどうか…。

若原 そこは大事な論点ですよね。データ管理された食事は健康面では有効だけど、一方で人間が食に大きく求めることとして嗜好性がある。

石原 アイディアは尽きませんね(笑)。今日の話を通じて、パブリックキッチンの存在意義はこれから確実に増えていくだろうと見通すことができました。

伊藤 都内の公園を多目的化していく動きがあるので、そこにもパブリックキッチンのニーズはあるかもしれません。

馬場 いろんな場所に提案していきたいですね。パブリックキッチンがやれることは、どうやらたくさんありそうです。

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