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「サーキュラー・エコノミー」の実現へ。ものづくりや流通を再構築するプラットフォームを作りたい。「ナカダイ」中台澄之×馬場正尊

REWORK編集長・馬場正尊(左)と株式会社ナカダイ専務取締役・中台澄之 氏(右)

REWORK編集長・馬場正尊が、新しいオフィスの形や働き方を実践している会社を訪ね、その意図や狙いを探る連載企画。

今回の対談相手は、群馬に工場を持ち、リサイクル率99%を実現する産業廃棄物処理会社の株式会社ナカダイ専務取締役・中台澄之氏。

中台さんは“廃棄物=マテリアル”という考えのもと、新たなレーベルとして「モノ:ファクトリー」を立ち上げ、その後法人化。廃棄物の新たな使い方を創造する事業やコンサルティング事業を展開している。マテリアルが並ぶ空間から生まれる、社会や環境を変えるアイデアとは。

Profile

中台 澄之(なかだい すみゆき)
株式会社ナカダイ専務取締役。株式会社モノファクトリー代表取締役。
東京理科大学理学部数学科卒業後、証券会社を経て、1999年に産業廃棄処分業「ナカダイ」入社。ISO14001の認証取得や中古品オークションを行うリユース市場の立ち上げなど、総合リサイクル業として事業を拡大。“使い方を創造し、捨て方をデザインする”リマーケティングビジネスを考案し、「発想はモノから生まれる」をコンセプトに、400種類を超えるマテリアルを常時展示・販売する「モノ:ファクトリー」を創設。

2013年Good Design Award、未来づくりデザイン特別賞受賞。WIRED Audi INNOVATION AWARD2016。企業研修、廃棄物に関する総合的なコンサルティング業務や、廃棄物を使ったイベントの企画・運営を手がける。著書に『「想い」と「アイデア」で世界を変える ゴミを宝に変えるすごい仕組み 株式会社ナカダイの挑戦』(SBクリエイティブ)など。

リサイクルが最善の方法なのか?違和感から始まった「モノ:ファクトリー」のアイデア。

馬場 今日は品川にあるナカダイのグループ会社、株式会社モノファクトリーのショールーム「モノ:ファクトリー」にお邪魔しています。

この空間を通じて、これまで中台さんが考えてきたこと、これから目指すことを聞かせてほしいと思います。初めてここに来たのは3年ほど前になりますが、改めてこの場所について教えてください。

中台 このショールームは廃棄物だけで空間を構成しています。我々は廃棄物のことを“マテリアル”と呼んでいて、例えば、この机はソーラーパネルを利用して作っています。

予期しないものが視覚的に捉えられる空間って、新しいことを考えるうえでものすごく大事です。ここにはいろんな業種の廃棄物が集まっており、様々なアイデアのきっかけをくれる空間なんです。

馬場 初めてここに来たとき、この空間に入った瞬間から異様にテンションが上がったのを覚えています。信号機がドーンと床に置かれていたり、見慣れたものが日常とは違う場所に、違うように置かれている風景を見て、めちゃくちゃインパクトがありました。常識をものすごく揺さぶられて、「ここヤバイな」と思ったんですよ。

廃棄となった信号機がオブジェとして飾られている「モノ:ファクトリー」のショールーム

中台 我々は廃棄物処理屋なので、解体や廃棄、リサイクルを主にやっていたんですが、リーマンショック後の2008年以降、ものづくりの工場が海外に移り、中国などアジアの製品が日本にどんどん入ってくるようになりました。

すると廃棄物の質が変わってくるんですね。在庫処理なのか発注ミスなのか、ダンボールの中には綺麗なものが入っているんですよ。それを仕分けしていくと、新品のキャップだけで2tとか消しゴムだけで5tとかになるんです。

馬場 すごいですね。

中台 その頃から「モノ:ファクトリー」の発想が生まれてきました。綺麗な新品の状態のものを平気でクラッシュして溶かして別のものに作り変えていたけど、問題なく使えるものを壊し続けるのはおかしいと思うようになりました。

形状をそのまま活かしたり、それが難しければ組み合わせるなどしてもいい。なにかこの現状を変えていきたいと思い、まずは並べることから始めたんですよね。

馬場 僕らから見ると衝撃の風景だったのは、中台さんの問題意識から素直に生まれたものだったんですね。

中台 そうなんですよ。壊すのにもエネルギーはかかるのに、綺麗な状態のものをどうして壊さなくてはいけないのかって。

馬場 人的なロス、エネルギー的なロス、時間的なロスを含めると、ものすごいロスですよね。

中台 同じものが大量に並ぶ風景って、「圧」がものすごいんですよ。あれを見て「分解してリサイクルしちゃえばいいや」とはならないんです。

「モノファクトリー」は「ナカダイ」からマテリアルを仕入れて販売する、いわば“商社”。品川のショールームには、常時100種類を超えるマテリアルが展示・販売されている
カラフルな糸状のものは、元々はLANケーブルだった
ある会社で、ペーパーレス化に伴い大量に廃棄された新品のクリップ
カラフルで形状も触感も豊かなマテリアルとの出会いがある

廃棄物業界の矛盾を超えて。 “生産会社”への転換を決意。

馬場 いつ頃からこのような場を作ろうと思い、「モノ:ファクトリー」を会社にしていったのか、プロセスを教えてもらえますか。

中台 2008年頃から、まずは工場の運営や管理の仕方をまるっきり変えないと、素材をきっちり並べることはできないと思い、製造系企業の生産方式について、専門家の先生のもとに勉強しに行ったんです。

馬場 へー!面白い!廃棄のプロセスを構築するために、生産のプロセスを学んだんですね。

中台 そのときに思ったのが、製造業が採用していた生産方式は我々には合わないということ。というのも、その生産方式の源泉は商品を一つでも多く作るために、トップダウンではなく、各部署で改善を繰り返して効率を上げていく。効率を上げて削減したコストは、さらなる生産に回していく。勉強すればするほど、先生からも「効率を上げて廃棄物の量を増やせ」と言われるんです。

馬場 利益を上げようと思うと、そういうことになりますよね。

中台 ものすごく矛盾していますが、廃棄物処分業の僕らは、ゴミをたくさん集め続けると儲かるというスキームなんですよ。僕らの業界ではゴミが減ることを良しとしないんです。でも、廃棄物を整理し新しいものを生産して、付加価値をつけて売ることができれば、処理量は減らしながら利益を上げる、その両立が絶対できると思っていたんです。

これからは量の時代ではない。非効率だけど丁寧に仕事をして、価値を上げる方法を模索しないといけない。僕らが目指すのは、非効率経営への挑戦なんですね。2009年には、我々は「リサイクル会社は辞めます」と宣言しました。廃棄物を丁寧に分別解体して素材を生産する「生産会社」なんだと全社に打ち出しました。

馬場 なるほど。この場所はそれと同時に作ったのですか?

中台 それから2年間かけて社内を改善して、2011年に工場がある群馬に、ひとつめの「モノ:ファクトリー」を作りました。

馬場 この品川よりも群馬が先だったんですね。それは社員の人たちの意識を変える空間だったでしょうね。

中台 まさにそうです。次第にメディアに出始めて、バスツアーでお客さんが見学に来ていただけるようになり、「俺たちの仕事って捨てたものじゃないな」って感じてくれたようで、社員の士気はどんどん上がっていきましたね。

馬場 群馬の現場にお邪魔したことがあるけど、社員のみなさんは匂いだけで細かく分別したり、「これはかっこいい!」と言って選り分けたりして、とても目利きでプロフェッショナルですよね。そうじゃないと、このクオリティで素材が集まらないですよね。

中台 そうですね。やっぱり会社の理念やコンセプトは大事だと思うんです。なんのためにやっているのか、目に見える形になると社員のモチベーションにつながると思います。

循環を前提としたものづくりや流通を。 「サーキュラー・エコノミー」を実現させる。

馬場 東京の品川にこの場所を作ったのはいつですか?

中台 2013年ですね。

馬場 この場所ができたことによって、どんな変化がありましたか?

中台 2013年にはグッドデザイン賞をいただき、ものすごく多くの人に来ていただきました。2016年頃からは、いろんな企業やクリエイターとのコラボレーションが始まりました。「サーキュラー・エコノミー」や「SDGs」という環境や循環に関するキーワードが世の中に出回ってきた頃です。我々が単純に廃棄物を任せる業者ではなく、一緒に取り組めるパートナーという感覚になってきているのかなと思います。

馬場 今はどんな事業が展開され始めていますか?

中台 一番わかりやすいのはオリンピックですね。選手村のエアコン1万5000台を100%リユースします。オリンピックで使われる物品は、あの短期間で捨てられてしまう可能性が高いんです。

馬場 えっ、本当ですか…?

中台 権利関係もあり、そのまま使うことができないんですよね。

廃棄物の世界では、とにかく「情報」が大事だと思っています。でも廃棄物を計画的に捨てる人なんていないから、情報を得るのは難しいんですね。

そこで事前に廃棄する情報がある業界ってなんだろう? と考えて思いついたのが、イベント業界なんですね。イベントはいつ始まっていつ終わるかがわかっていて、何を調達して、どう設えたのかがわかる。だから100%リユース、リサイクルのイベントを組むことができるんです。

馬場 なるほど!その最も大きなイベントがオリンピックなんですね。

中台 そうなんです。それでオリンピックのことを調べたら、廃棄物がとても多いことがわかりました。部分的にリースもあると思うんですが、各部署が各々で判断しているようで。

馬場 場当たり的になってしまっていて、システムになっていないんだ。

中台 そうなんです。実はこの理屈は企業にも当てはまっていて、会社として自分たちが関わっている商品の廃棄の行方を全体できちんとマネジメントすれば、「これは機密が含まれないから、もう一回使っても問題ない」というものが出てくるはずなんです。

今の「モノ:ファクトリー」のコアな仕事は、循環を前提とした社会のためのスキーム作りです。きちんと企業側にもメリットがあるように、利益が出て回る仕組みを作らないといけないと思っています。

馬場 まさに「サーキュラー・エコノミー」ですね。

「回収」が当たり前になる世界が、もうすぐやって来る。

中台 どの企業でも、廃棄処理の費用は絶対に予算化されていて、大企業だと10億とか20億とか使っているんですよね。その廃棄物の処理費用を「モノを生かす費用」として、使い方の意味合いをまったく変えていく。例えば、それはリサイクルもあるし、リユースもあるし、そこから新製品を作ることもあり得ます。

馬場 たとえ1割でも2割でも、ただの廃棄という行為をクリエイティブシフトしただけで、構造がまったく変わるということですね。

中台 このショールームについて話を戻すと、「自分たちの企業も、廃棄について自由に発想して、考えていかないとマズいよね」という概念が、自然に視覚的に入ってくるような空間をここでは維持しておきたいんですよ。

馬場 なるほど。この空間に来るとよくわかりますもんね。メッセージとして、スパッと入ってくる。

中台 「何かやらないとまずいな」と感じられるのがすごく大事。だから本当は、各企業にこういう部屋が一室あったらいいと思うんですよね。

馬場 例えばメーカーの工場の横にこんな空間があれば、すごくカッコ良くなる可能性がありますよね。そこからデザイン部門の人がアイディアを生み出したり、違うビジネスに発展したりする可能性だってある。そういった循環自体が「サーキュラー・エコノミー」ってことなんでしょうね。

「モノ:ファクトリー」はそういったアドバイスや、廃棄のクリエイティブシフトに関するコンサルティングもやっているのですか?

中台 それがほとんどですね。実は中国が2017年から廃プラスチックの受け入れを禁止するようになって、大問題になっているんです。以前は使用済みペットボトルを資源として中国に輸出してフリースを作ったりしていましたよね。でもそのプラスチックの中にはゴミもたくさん混じっていた。中国が経済成長を遂げて、海洋プラスチックをはじめとする環境問題が深刻に叫ばれるようになって、ついにプラスチックの受け入れが全面禁止になりました。

馬場 適正に処理されなかったプラスチックは、国内に埋め立てるしかないということですね。

中台 そうです。これまではアジアで安くものを作り、日本に運ばれて消費され、ある程度分別したあと、不要なものはまたアジアに出していた。その流れがここにきて寸断されました。これまでのグローバルなリサイクルの循環システムが立ち行かなくなっているんです。その流れを受けて、消費財メーカーなどから、いかに自分たちで回収するスキームを作るかという相談を多く受けています。

馬場 今まで一直線だった流れを、循環型に再構築しなくてはいけなくなったんですね。

中台 そうなんです。循環を前提としたものづくりです。これからは、製造した後、売った後までマネージメントしないと企業として立ち行かなくなる。回収するのが当たり前になる世界は遠くないと思います。

というのも、お台場の海の先に、埋め立てた人工島のゴミ処分センターがあって、東京都のゴミがそこに集められていますが、そこはあと50年しかもたないと言われています。処理場の面積を少しずつのばしているのですが、輸出入の大型船の航路を遮ることになり、これ以上は広げられない。その限界が50年後なんです。

馬場 衝撃の事実ですね…。「モノ:ファクトリー」の空間から、大きな社会問題があぶり出されていくな…。


人工島のゴミ処理場。マップをズームアウトしてご覧ください。


中台 今までは販売量が企業の評価軸でしたが、これからは回収量が評価軸になっていく。回収量が把握できれば、買い替えの需要が判断できるので企業側にとっても悪い話ではないんですよね。

馬場 マーケティングにも組み込んでいけるってことですもんね。回収量が大きな評価軸になって、もっと生々しくいうと株価を左右する指標の一つになってもおかしくない。

消費者側のモードも、常に新しいものから若干シフトしていて、一手間加えた、カスタマイズされたものがカッコいいという時代になっていますよね。若ければ若いほど、その感性は標準化している気がします。

中台 そうですね。使い終わったらゴミ箱に捨てるという一直線ではない思考になってくると思います。使い終わったら買ったときの箱に入れて送り返すことが、当たり前になるイメージです。企業には同じものが集まるので、リサイクルもしやすいし、リユースもしやすい。集める仕組みさえ整ってしまえば、難しくないんですよ

圧倒的なリアルを感じる空間が、アイデアを生み出す。

馬場 今の廃棄物の経済規模を数字で言うと、どれくらいなのでしょうか。

中台 ちょっと笑っちゃうんですけど、どの業界でも経済規模の単位は「円」なんですけど、廃棄物の業界だけ「t(トン)」なんですよね。

馬場:はははは。なるほど。

中台 直近でいうと、1年間の産業廃棄物の量は3億8900万tですね。だいたいkgあたり40円ぐらいが標準の処理単価なので、計算すると15兆円くらいの規模です。

馬場 例えば、どんな産業に匹敵するんでしょうか。

中台 IT業界とか建築業界がだいたい一緒ですね。

馬場 すごい規模ですね…。この空間から話がスタートしたけど、世界の環境問題にまで話が及んでいる。「ナカダイ」や「モノファクトリー」が見ているのは、それだけ壮大な世界だということですよね。

中台 このショールームは、そういうことが自然に話せる空間なんですよ。会議室で話す環境問題とここで話す環境問題は、大きな違いがあると思います。

馬場 圧倒的なリアルを感じる空間があると、そこから生まれるアイデアや発想は、より切実な解答になりますよね。リアルが自分の中にあることの重要性を感じます。

今までは、考えることはカッコいいオフィスの中で、現場はすべて外、と分化されていた。だけど、オフィスにリアルを持ち込むことによって、覚醒させられることがたくさんありますね。

中台 東京の綺麗なオフィスで働く人たちには、気づきがあると思いますね。我々の群馬の現場でも、工場にショールームを併設していることで、あれだけ煩雑な廃棄物の山の中にこんなマテリアルがあるというギャップが伝えられるんです。

馬場 なるほど。「モノ:ファクトリー」が今まで離れていた部門同士をブリッジしているともいえるのですね。これは大きな示唆かもしれないな。OpenAの事務所にも小さな作業場があるのですが、そういった現場があるだけでも生々しさがあるんですよね。思考する場に“リアル”があるとやっぱり強いですね。

「ソーシャルマテリアル」のプラットフォームが、 日本のものづくりと流通を変えていく。

馬場 最後に、法人としての「モノファクトリー」が今後目指すことを聞かせてもらえますか。

中台 循環を前提とした産業と流通、それが機能的に動くプラットフォームを作ることですね。「ソーシャルマテリアル」って僕らは呼んでいるんですけど、いろんな企業が出した廃棄物の塊って、社会的に「みんなで使っていいよ」という素材であるべきだと思うんです。

馬場 それは面白いですね!「ソーシャルマテリアル」ってインパクトがある言葉だなぁ。

中台 新品のマテリアルとソーシャルマテリアル、それにデジタルファブリケーション(デジタルデータをもとに制作する技術)をきっちり組み合わせて、モノの生産や流通が再構築されるプラットフォームを作りたい。

そのためには、合法的で、マーケティングやブランディングにも使えて企業が儲かる仕組みにしなければいけない。そうすれば参加する企業が増えて、たくさんの素材が集まると思うんです。死ぬまでにはその仕組みが作りたいです。

馬場 すごい!ソーシャルマテリアルのプラットフォームですか。そのためには法整備などいろんなことがいるだろうけど、今後は避けられないでしょうね。

中台 避けられないと思います。海外を巻き込んだリサイクルの仕組みが大きく変わった今、この仕組みが日本の今後生き残る唯一の手段かなと。

だけど、日本人は丁寧な気質があるし、クリエイティブな回収のシフトチェンジは向いていそうな気がしますよね。日本発の新しい産業としても、十分世界で戦っていけるんじゃないかなと思います。

馬場 確かにそうですね。本来僕らが持っている“もったいない”精神的と相性が良さそうです。

中台 これは環境のための慈善事業ではなく、もはやビジネスの領域に食い込んでいる。多くの企業がもう気づいていると思うんですよね。このままじゃ立ち行かないって。でもなかなか一歩が踏み出せない。だから僕らがあらかじめスキームを考えて前例を作り、いろんな企業が始めやすい状態に整えていこうと思っています。

馬場 今日はありがとうございました。オフィスや働き方を超えた壮大なお話で、大きな気づきがありました。

中台 こちらこそ、ありがとうございました。

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